「――上腕ニ頭筋・・・筋反射良好・・・外転、OK。・・・内転、OK。」

ギルモア邸のメディカルルーム。博士の声が響く。
ベッドには009が横たわっている。
ロボット・スクナの攻撃を受け、両上腕を損傷した。
応急処置はしたものの、何しろ――両手である。
補修とチェックが念入りに行われていた。

「次、radial artery ――Flow OK、pulse OK。・・・フム、左手は大丈夫なようじゃな。次は右じゃ」

博士がチェックしていくのを聞きながら、003がカルテに書き込んでゆく。
時折、心配そうに009を見つめて。

「・・・radial nerve OK、median nerve ・・・OK 。次、指のチェック。第1指・・・屈曲不可。自力可動不可・・・」

博士の顔が厳しくなってゆく。

「・・・右手はダメじゃ。完治まで2日はかかるな」

筋と腱の損傷により、上腕と前腕の筋肉の巧緻性が失われ、右手は動かせなくなってしまっていた。

「――まぁ、神経と血管は問題ないから心配は要らんが」

ほうっと009が息を吐く。

「――良かった。・・・最悪、腕の交換と思ってましたから」
「ン。よくここまで帰って来れたもんじゃ。・・・痛かっただろうに」
「平気です」

淡く微笑む009を見つめ、003は複雑な思いだった。

 

 

「それにしても・・・右手が使えないと不便だよなぁ」

メディカルルームを後にして、009と003は並んで廊下を歩いていた。
009は上半身はシャツ姿で右手を動かせないようにしっかりと固定されている。
003は009の防護服とマフラーを持って歩いている。

「でも、2日くらいで治るって博士も言っていたし。そのくらいで済んで良かったわ」

009が一人でスクナと戦っている姿を、教授と博士と一緒に観ることになった003。
その時の事を思い出してそっとうつむく。

あんな想いはもう嫌・・・!

そんな003を見つめ、009は左手を伸ばすと003の頭にポンと置いた。

「心配しなくても大丈夫」

そのまま手を滑らせ、肩をそっと抱き寄せる。

「・・・でも、心配かけちゃったよね」

他の仲間は、009が命を落としそうになった時、地下中枢部でコンピューターの破壊に成功していた。
それにより001が目覚め、間一髪009の救出に成功したのだった。
けれど、009が破壊されてゆくのを見ざるを得なかった003のダメージは大きかった。

003が無言でそっと首を横に振る。

「――あの時、君が選ばれなくて良かった」

スクナは009を選んだ。それは偶然だったのだろうか。
それとも、分析した結果一番性能が良いのは009だと判断したのだろうか。
ともかく、誰が選ばれてもおかしくない状況だった。
もしかしたら、003だったかもしれない。
そう考えると、改めて怒りが湧く009だった。

「僕で良かったよ」

言うと、003の髪にそっとキスをした。

「・・・ジョーったら・・・」