リビングでは他の仲間が心配そうに待っていた。
一斉に009を質問責めにする。

そこへ「今日のおやつ」を持って006が入って来た。

「今日はジョーの好きな杏仁豆腐アルよ」

大変な目に遭った009を気遣ってのことだった。
その心遣いが009は嬉しかった。
だが。

「・・・・あ」

杏仁豆腐がスプーンからつるんと逃げて、009の膝に着地した。

「・・・・・」

うなだれる009。
その膝を布巾でそっと拭いて

「・・・まだ左手だって十分じゃないのよ。もともと左利きでもないんだし。気にしないの」

003が声をかける。

「・・・ウン。でも・・・」

せっかく006が作ってくれたのに。

じっと杏仁豆腐を見つめる。
その009の杏仁豆腐の入った器を手元に引き寄せた003は、自分のスプーンでそれをすくい009の口元に持っていった。

「・・・・・え?」
「はい。あーんして?」
「・・・・・え?」
「あーんして」
「・・・・・」

無言のまま下を向く009。
その顔をじっと見つめる003。
そして、その二人を鮮やかに無視してそれぞれ食べ続けるメンバーたち。
が、無視しきれず、002は肩を震わせ笑いを堪えている。その002を目で制する004。余計な発言をしたら即刻退場させようと構えている。
成り行きを心配そうに見つめる007は、手元がすっかりお留守になっている。

頬を染めたままうつむいている009をちらりと見て008は
「ごちそうさま。美味しかったよ大人」
と006に声をかけ、席を立った。
「ドルフィン号の整備をしてくる」
「俺も、行く」
続いて立ち上がったのは005。009と003を一瞬見つめ、口元に笑みを浮かべて。

二人が席を立ったのが合図のように、他のメンバーも何かしら口実を設けて部屋を後にした。
最後に006が空になった食器を集めてトレイに載せ、
「003。終わったら持ってくるアルヨロシ」
「わかったわ」
003の笑顔に送られ、部屋を後にした。

 

「・・・ジョー?」
「・・・・・・・・」

まだ下を向いたままの009に少し拗ねたように言う。

「手が疲れてきちゃったわ。・・・食べてくれないんだもの」

思わず顔を上げる009。

「あ、ご、ゴメン。そんなつもりじゃ・・・」

言いかける009の口元にスプーンを進める。
成り行き上、口にする009。

「・・・おいしい」
「でしょ?食べなくちゃ損しちゃうわよ」

自分の器から口に運ぶ003。自分のぶんを食べることも忘れない。
そして。

「はい。あーん」
「・・・・ん」

今度は素直に口を開ける009。

「・・・大人の作るおやつって」

ポツリと呟いた009を、ん、と首を傾げて003が見つめる。

「その・・・いつもタイミングがいいよね。・・・疲れている時とか。誰も何も言わないのに」
「そうね」

またひとくち009の口に運ぶ。

「大人はみんなの様子・・・気分とか、そういうのに敏感だから・・・」

003の声にそうだね、と頷いて009はもうひとくち口にした。