第20話「裏切りの砂漠」その後
闇夜

 

「マユミさん」、か・・・。
ジョーの。あなたの。初恋のひと。

だからなのかな。
帰るのがちょっと遅くなるから。って、電話で話した時の、あなたの声。
嬉しそうな、哀しそうな、戸惑っているような。
まさかあの時、砂漠を横断しようとしてたなんて。
彼女と、その恋人を組織から護って、無事に逃がす為に。
たったひとりで。

みんなの決断は早かった。
どんな組織なのかを知った瞬間に、砂漠に飛ぶ事は決定した。
そして博士も「なんだか胸騒ぎがして」同行することになって。
そして。
予感的中。
上空から視たあなたの姿。
ぼろぼろの防護服。
腕から上がる硝煙と火花。
虚ろな瞳。

ともかく、あなたは生きていた。

 

 

あなたは何も言わないけれど。
ね。
「マユミさん」て、どんなひとだったの?あなたにとって。
ジェット曰く、あなたの熱烈なファンで、そして恋人でもあった。って。
でも
それだけじゃ・・・ないわよね?
きっと、あなたにとって「マユミさん」は。
信じることができる、心を許すことができる、たったひとりのひとだった。
大切で。大好きで。
そして、きっとその思いはずっと消える事無く、あなたの胸の奥に在った。
それはおそらく
サイボーグにされてしまったあなたにとって、「仲間」とは違う「普通の日常」の象徴だったのかもしれない。



 

きっと、私では駄目なのね。

隣でぐっすり眠っているあなたを見つめて思う。
「サイボーグ」で「仲間」の私では、あなたの「日常」にはなれない。
なれはしない。
けれど。

あなたを守ることはできる。

私の力は、メンバー中最も弱い。
でも、「普通のひと」と比べたら強い。
忌まわしい目と耳でも、戦闘中は必要不可欠のものになる。
あなたが死なないように。
私が守る。

いつかきっと、あなたにとっての「マユミさん」はまた現れるかもしれない。
それが明日なのか、永遠にこないのかはわからない。
でも。
あなたと戦場に立つ限り、その瞬間だけは、あなたを守るのは私だけ。
あなたの心を守れるのは私だけ。
・・・そう、思っていてもいいでしょう?

闘うのは嫌い。
何も私たちが闘わなくても。とも思う。
でも、そこがあなたと居られる唯一の場所だとしたら。
きっと私は行くだろう。
だって私はゼロゼロナンバーサイボーグ。
「仲間」にはなれても「日常」にはなれない。
あなたの「日常」にはなれない。
永遠に。

 

 

                     009バージョンへ