港まで、あと一時間。

メディカル・ルームを出て、僕は休憩室に行った。
コックピットには戻りにくかった。
きっとみんながあれこれ僕の話をしているだろうから。

・・・さすがに疲れた。

本当は、まだ安静が必要なこの身体。
まだ握力も元に戻っていない。力が入らない。

だけど、後悔はしていなかった。

マユミさんが僕に求めたのは「無償の愛」。
人間を守るために働くのがサイボーグだと、そう言った。
だったら僕は、最後までそれを全うする。
それが、昔好きだった彼女に、サイボーグである僕が今できること。

 

 

「ジョー?・・・大丈夫?」

ふわりと風が動いて・・・君が顔を覗き込んでいた。
蒼い瞳。
僕の好きな蒼。

「・・・大丈夫。さっきはありがとう」
そばにいてくれて。
そう言う代わりに、そっと手を伸ばす。
フランソワーズはその手を両手で包んでくれた。温かくて柔らかい、白い手。
僕の手をそっと自分の頬に押しあてる。
「もう・・・あんな無茶はしないでね」
あんな無茶、って、どれだろう。
砂漠を渡ろうとしたこと?
無理を承知で、マユミさんたちを助けに向かったこと?
そう聞いたら、両方よと言われた。

僕の隣に座り込む。
僕の右手をその頬に押し当てたまま、じっと見つめる蒼い瞳。
その瞳が潤んでくる。
「・・・もうイヤよ。こういうのは」

 

君は、あの砂漠で一体何があったのか最後まで訊かなかった。
僕とマユミさんの事も、何も言わない。
ただずっと隣にいてくれた。

僕は、その心地よさに甘えていていいのだろうか。

 

 

・・・君も、いつか僕の前からいなくなる?

その蒼い瞳で、僕ではない誰かを見つめる日がくる?

 

それはダメだよ、フランソワーズ。

そんな事には耐えられない。

 

僕は、君を離さない。