「何言ってるの!?そんなジョーなんか嫌いよ!」


えっ。


僕は彼女の剣幕に驚いていた。
だって――なんで。どうして・・・そんなに怒るのかわからない。


「ね。本当にそう思っているの?」
「え・・・何が」
「何がじゃないわ。私と出会うことと引き換えに生身の身体を失うっていう考え方のことを言ってるの!」

フランソワーズはソファから立ち上がり、僕の目の前で仁王立ちになった。
照明と逆光で彼女の表情はよく見えない。が、見えなくて幸せなのかもしれない。
ぼんやりそう思った僕の両肩をフランソワーズは渾身の力で突き飛ばした。

「冗談じゃないわ!」

身構えていなかった僕は、あっけなくソファに転がった。

「意味もなく実験体にされた被害者であって、こんなの、意味を持たせようと思ったって無理があるのよ!私もあなたも、好きでサイボーグになったわけじゃないでしょう!?」

それは――そうだけど。
でも、僕が言いたいのはそうではなくて・・・

「それに、サイボーグにならなかったら会えなかったなんて、どうしてそう思うのよ」
「え。だってそれは運命だからって・・・」
「運命!?サイボーグになるのが運命?」
「いや、そうじゃないけど」
「そうじゃないでしょ!?いい、ジョー!」

フランソワーズは転がった僕のシャツの衿を両手で引っ張り上げた。
なんだかカツアゲされているような妙に懐かしい気分になったけれどもそれは内緒だ。

「サイボーグになったから会えたなんて、今度言ったら許さないわよ!だって、私たちはそうじゃなくても絶対にどこかで会っていたんだから!
そういうのが運命っていうんじゃないの!?」
「う」
「う、じゃないわよ。はい、でしょ?」
「・・・ハイ」
「だから、二度と言わないで頂戴。会えたから機械の身体になったことも捨てたもんじゃない、なんて」
「・・・うん。ごめん」
「ばか」
「うん」


――そうだったね。フランソワーズ。

僕達はきっと、ブラックゴーストに関係なく、いつか出会う運命だったんだ。そう話したんだったよね。

「うん・・・ごめん」

僕はフランソワーズを胸に抱き締めた。泣いているみたいな彼女にごめんを繰り返しながら。


でもね、フランソワーズ。
君はわかっているようでわかっていない。

いや・・・もしかしたら、わかっているのかもしれないけれど。
わかっていて、わかっているからこそ――言葉にしてしまうことを駄目だと言っているのかもしれないけれど。

そうだとしたら、やっぱり僕はただの弱い男なのだろう。
弱い男の僕は、機械の身体になったことを肯定なんて絶対にしないけれど、でもこうなってしまったからには、その現実を受け容れて、何かプラスになる意味をみつけてみたかったんだ。

そうでなければあまりにも報われないだろう?

機械の身体が元に戻ることがないのであれば、せめて現実を受け止めて――何か、「これはこれで意味があったんだ」と思いたい。

だから。

機械の身体は――もちろん、絶対的に許容できるものではないけれど。
それでも、そうなったから君に会えたんだと思うことによって、少しは相殺できるかもしれない。

そう思ったんだ。


そうでも思わなければやりきれない。


そう思えれば、少しは気が晴れるし――この身体を好きになれるかもしれない。


僕は、自分の身体が鋼鉄の身体だということを忘れはしないし許容もしない。
ただ、それらを踏まえた上でひとすじの光明を見出すとすれば――それは君なんだ。

だから、フランソワーズ。
機械の身体も捨てたもんじゃないさ――なんていうのは、本当は弱い僕のただの強がりに過ぎないんだ。
ちょっとだけ、かっこつけて言ってみた。


だけど。


君は、そんな僕の弱音も許さないという。

――確かに、物事には言ってもいいことと悪いことがある。
例え、そう言うことで多少は救われるのだとしても、それでもやっぱり――機械の身体で良かったなんていう事は言ってはいけないことなんだよね。だって、言った瞬間に「本当に」そう思っているように聞こえてしまう。音にしたら終わりなんだ。
実際には、この身体なんか到底許容できるものではないのだから。