第23話「死闘!V2作戦」
いつでも隣り合わせ

 

「どうするの、ジョー?」

一瞬の隙。
そこを衝かれて、敵は研究所を狙ってミサイルを放った。
私達が護るべきものに向かって。

「このままミサイルに体当たりする」

思わず、息を呑んで、見つめていた。
唇を噛み決死の表情で前を見つめるあなたの横顔。
ミサイルと研究所との間に入り込んで盾になるべく全速力で潜行するドルフィン号。
まさか特攻する事になるとは思ってなかった。

間に合うか?
間に合わないか?

必死に操縦桿を握り締め、祈るような表情のあなた。
いま、頭の中には研究所を護ることと仲間を護ることしかないはずなのに。

「・・・・すまない。フランソワーズ」

小さくひとこと。
あなたの意識の片隅に、私の存在がちゃんとあった。
しかも、最後の最後にナンバーではなく名前で呼んでくれた。
今は、そんなことを悠長に考えている場合じゃないのに、嬉しかった。
いま、ここにあなたと一緒に居られて良かった。
別々の機に乗っていたら。と思うと心が痛くなった。

・・・いいのよ。私なら。

思いを込めて見つめる横顔。

そして、ミサイルが研究所に到達する寸前、ドルフィン号は間に合った。
被弾するまで1秒も、無い。
「・・・・!」
あなたが庇うように私を抱き寄せた。

ミサイルが被弾する瞬間。

突然、全てのミサイルが方向を変えた。
向かってゆくその先は、ミサイルを発射した戦艦。
自分の射出したミサイルが自分のところに戻ってくるなど予想外の出来事だっただろう。
成す術もなく・・・。

助かったの?わたしたち。

呆然とスクリーンを見つめていたら、そっとあなたが手を握った。
・・・震えている。
その手を握り返して。
私は怖くなかったから。大丈夫だから。心配しないで。
だって、あなたが一緒だったのだもの。
例え、いつかどこかで命が尽きる時が来ようとも。
私は、あなたと一緒なら怖くない。
そのまま、そっと肩にもたれると、あなたの優しい瞳に出会った。
お互いにくすっと笑い合う。

死を覚悟した一瞬。

私はあなたのそばに居られた事が、ただ嬉しかった。

 

 

 

ひとり、甲板から空を見ていた。

太平洋のXポイント。
廃船の下に研究所を設置し、カムフラージュを終えて。
みんなクタクタに疲れて、今はそれぞれの部屋として割り当てられた船室で休養している。

僕は自分で自分を許せなくて寝付けなかった。

みんなを危険な目に遭わせる所だったのだ。なぜゆっくり眠る事ができる?
それも、自分の単純なミスで。
迎撃ミサイルを発射した後の一瞬、敵を見失った。
その隙を衝かれ、下に潜り込まれミサイルを発射された。

あの時、イワンが起きなかったら。

ドルフィン号は敵のミサイルによって四散していただろう。
いや、それはそれで良かっただろう。その時点では研究所も仲間も護れていたはずだから。
だけど、ドルフィン号で特攻せざるを得ない状況にしてしまったのは僕の判断ミスだった。
あまりにも単純なミスだ。
しかも。
ドルフィン号には僕だけでなくフランソワーズも乗っていたというのに。
危うく、彼女も巻き添えにしてしまうところだった。

彼女も巻き添えに。

・・・思い出すだけで身震いがする。
君を護ると誓った僕なのに。
その君の命を僕がこの手で奪うところだった。
僕が未熟なために。

僕がもっと落ち着いて戦況を見極めていれば。
もっと早く気付いていれば。
当然の状況として想定できてさえいれば。
君を危険な目に遭わせることもなかった。

結果的に助かったけれど、だからといってそのままうやむやにしてしまうわけにはいかない。

僕は、君を護る。
仲間を護る。
それが、ゼロゼロナンバー中最強の僕の役割。

もっと強くならなければ。

 

 

 

 

『ふらんそわーず・・・・ふらんそわーず・・・』

「ん・・・なぁに、イワン?・・・お腹がすいたの?」
軽くあくびをしながら体を起こす。
「待って。いま、そっちに行くから」
ベッドから降りる。

『違ウヨ。・・・じょーノ傍ニ行ッテアゲテ』

ジョーの傍に?
「ど、どうしたのイワン?何かあったの?」
一瞬で目が覚めた。
戦闘モードに切り替えつつ、眼のスイッチを入れる。ジョーはどこ?

『ソウジャナクテ』

・・・居た。
ジョーはひとり、甲板に立っている。空を見ているようだけど・・・敵襲?
慌てて空に眼を凝らすけれど、それらしい陰影は見えない。

『敵ジャナイヨ、ふらんそわーず』

ちょっといらついたようなイワンの声。
もう。敵じゃないなら、どうしたというの?

『じょーノ傍ニ行ッテアゲテ。ソウジャナイト、じょーノ意識ガウルサクテ眠レナイヨ』
「・・・どういうこと?」
『今日ノ事ヲ反省シテル。ヒドクオチコンデイテ、手ガツケラレナイ』
落ち込んでいる。ジョーが。
「・・・わかったわ」
『任セタヨ・・・僕ハ眠リタイ』

それっきりイワンの思考は途絶えた。

・・・時々、こういうことがある。
どうやら、仲間の「負の感情」に敏感に反応してしまい、共鳴してしまうらしい。
今までにも何度頼まれた事か。
時にはアルベルトだったり。ジェロニモだったり。グレートだったり(なぜかジェットはない)。
大抵は、一緒にお茶を飲んだり、静かに話したりすることでみんな落ち着いてゆくのだけれど。
相手がジョーとなると。
心からため息を吐く。
・・・かなり、手強い。
今晩は徹夜になるかも。

 

 

 

背後に人の気配がした。
思わず身構えて振り返る。
そこには。
「・・・フランソワーズ」
「・・・眠れないの?」
月明かりに亜麻色の髪が輝く。
一瞬みとれて、すぐに目を逸らす。
じっと波間を見つめる。

「静かね」
「・・・・」
「今日は大変な一日だったわね。・・・一日しか経ってないなんて信じられないくらい」
「・・・・」
「・・・ごめんなさい」
「・・・・」
「私の気付くのが遅かったばっかりに、あなたを危険な目に遭わせたわ」
「・・・・」
「私の役目はそれしかなかったのに。・・・一緒に乗ってたのに、意味が無かったどころか足手まといになっちゃったわ」
ふふ、と小さく笑う。
「駄目ね。私って。いつもあなたに迷惑かけてばかり」
「それは違う」
唸るような低い声。
「今日の事は、僕が・・・僕のミスなんだ。君は全然、関係ない」
「関係なくなんてないわ。私がもっとちゃんと視ていれば、あなたを危険な目に遭わせることなんか無かったはずよ」
「それは違う」
「違わない」
「違うよ」
「違わない」
「違うって!!」
お互いに一歩も譲らず、睨み合う。

しばし、間。

先に吹き出したのは009だった。
「・・・まったく。かなわないな、君には」

いつも僕の憂鬱をするりと受け止めて浄化してしまう。
そっと抱き寄せて額にくちづける。

「だって、本当のことだもの」
朝から索敵していたせいで限界だった。とは言えない。
そうじゃないと、私の003としての役割がなくなってしまう。

でも。
こうしてあなたの胸に抱き締められていると、何にも心配要らないんだ、って思ってしまう。
・・・それは、もしかしたら危険なことなのかもしれないけれど。

私ね。
あの時、幸せだったのよ。

胸の中で言うだけで、あなたには言わない。
今は、まだ。

 

僕は君を護れるだろうか。永遠に。
君を胸に抱き締めながら、自分に問う。

もし、僕の命が尽きる時が来るならば。
君を守り抜いて、できるならば・・・君の傍で逝きたい。

そんな事を言ったら、君は絶対怒るだろう。
だから、言わない。
でも。
それは僕の、秘かな願い。

 

 

   

 

 

 

 

 

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