出会った女性は、キャシーと名乗った。

彼女は無邪気で屈託がなく、よく笑った。
いつしか自分も彼女と一緒に笑っていた。ごく自然に。

何をしても楽しくて、その日はずっと笑い合っていたような気がする。

全てを忘れて。

その時、僕は確かに、ただの「島村ジョー」だった。
それ以上でも以下でもなく。

そして、どんどん彼女に惹かれていった。

 

夕方になり、「そろそろ帰らないと」と、彼女を促しつつも別れがたく、彼女の肩に回した腕を外すのは難しいことだった。
「お別れしたら、もう会えないわ・・・!」
僕の腕の中で、泣きそうな顔で言うキャシー。
「どうしてなんだい?」

けれども、僕の問いに答えるより早く、クラクションの音に顔を上げると駆け出して行ってしまった。
その先には、黒塗りの車。

車のなかのキャシーはひどく哀しそうで。
揺れる瞳だけを僕の心の中に刻みつけて去っていった。

キャシー。
君はいったい、何者なんだ?

そして僕は、君の連絡先さえ聞いていなかったことに気がついた。

 

 

 

 

その日、どうやって帰ったのか憶えていない。

ただずっとキャシーの事ばかり考えていたような気がする。
だから、僕の帰りを起きて待っていたフランソワーズの問いも適当に受け流し、足早に部屋に戻った。
フランソワーズに何か用事があったような気がしていたけれど、忘れてしまった。
一人になりたかった。

本当に、もう会えないのだろうか?キャシーには。

楽しすぎた一日を忘れる事などできない。

二度と会えないなんて、信じたくない。
だけど、僕は君の事を何も知らないんだ。

キャシー。

もう一度、君に会いたい。
エメラルドグリーンの瞳を見つめていたい。

 

僕は彼女に恋をした。