まるで、安っぽいドラマみたいね。
手のなかのものを見つめて苦笑する。
ジョーと一緒に行った買い出しで、車の中で見つけた。
無造作に、助手席のシートのしたに転がっていた一本の口紅。
箱入りのまま、封も切られていない。
恋人の車の中に、自分のものではない口紅を見つけてしまう。
そのまま、ドラマか歌の詞に使えそうなシチュエーション。
拾ったものの、言い出せなくて持ってきてしまった。
彼が買ったのかしら?
一瞬そう思い、すぐに否定する。まさか。
彼が化粧品売り場になんて行くわけがない。
だけど、だったらどうしてここに?
誰かの忘れ物?
それとも、誰かがわざと置いていったの?
使いかけではないあたりが、妙に作為を感じさせた。
最近、ジョーがどこか上の空で、何か考え込んでいるのと関係があるのかしら。
海を見つめていることが多くなったあなた。
話しかけても、聞こえていないのか返事もない。
だから私は、ただ黙って彼の隣で海を見ているしかなかった。
エメラルドグリーンの海を。
ジョーがモナミ王国に向かったのは、それからすぐのことだった。