キャシーと再会した時、僕はただ嬉しかった。
エメラルドグリーンの瞳。
優しい声。
少し甘えたような可愛い笑顔。
全てそのままだった。
自分の胸に飛び込んできた彼女を優しく抱き締める。
二人きりになりたくて、デッキに出た。
ずっと会いたかったと涙ぐんだキャシー。
僕も同じ気持ちだった。
恋しくて。
会いたくて。
忘れられなかった。
君も同じ気持ちでいてくれたんだね?
僕は少し腕に力をこめて抱き寄せ・・・唇を重ねた。
重ねようと、した。
けれど、キャシーはするりと僕の腕から逃れた。
「私は一日だけ、普通の女の子として過ごしたかった」
震える声で言う。じっと暗い海を見つめて。
「王女ということを忘れて。ただのキャシーでいたかった。たった一日でいいから」
・・・驚いた。
僕と同じだったから。
「・・・わかるよ。僕もずっと同じ気持ちだった」
あの日。
一緒に過ごした日。
僕は、一日だけでいいから、サイボーグであることを忘れたかった。
ただの島村ジョーとして過ごしたかった。
そして、出会ったのが君。キャシーだった。
その日、お互いに同じ気持ちでいたとは知らずに一緒に居た。
だから、惹かれたのだろうか?
お互いを通して「ただの一人の人間として過ごしている自分」を見ていたのだろうか。
「自由な自分」を。
僕はキャシーを見つめた。
キャシーも僕を見つめていた。
あの日は、お互いにとっての非日常だった。
たった一日だけの、日常からのエスケープ。
永遠に続くわけではない。
だからこそ、焦がれた。
「自由な自分」でいることに。
「ただの自分」でいられることに。
・・・そうだ。
僕は、彼女に恋なんてしていなかった。
僕が恋していたのは・・・「自由な時間」だった。
サイボーグということを忘れ、「ただの自分」でいることが許される時間。
一緒に過ごした彼女が、同じものを欲していたから気持ちが通じ合った。
相手のなかに「そうありたい自分」の姿を見つけて惹かれ合った。
僕たちは勘違いした。
それを恋だと間違えた。
お互いに惹かれていると思っていたのは、彼女自身に対してではなく。
勿論、僕自身に対してでもなく。
お互いの、「自由な自分」への思慕だった。
キャシーが微笑んだ。哀しく。
僕も微笑んだ。
そうだね。
いま、お互いに解った。
お互いの、真実の気持ちに。
エスケープはもう終わりの時間。
魔法のように大切にしていたけれど、もうその魔法は解ける時間だった。
次に抱き締めあったのは、本当の別れのためだった。
「君に会えてよかったよ」
「私も、あなたに会えてよかった。・・・ずっと忘れないわ。きっと」
そう言って僕の頬にキスをして、彼女は「自分の居るべき場所」に戻って行った。
もう二度と会わない。
僕はしばらく立ち尽くし・・・そして、自分の「すべきこと」をするために、デッキを蹴って海に飛び込んだ。
向かってくる魚雷を撃つために。
彼女のいる船を守るために。
僕は戦闘用サイボーグ。
だけど、守るために闘っているんだ。