一回、小さく頷いて。

「そういう日があってもいいと思うの。・・・あってもいいのよ」

 

 

僕は声もなくフランソワーズを見つめていた。

・・・僕は、何を遠回りしていたのだろう。

僕が探していた答えは彼女が持っていた。
いつもそばにいた彼女が。

 

「自由な自分」になるためには、自分のことを知らない人の中に身を置くしかないと思っていた。
僕がサイボーグであることを知らない人たちの中に。

でも、実際は。

雑踏の中に身を置いても、孤独感が増すだけだった。

 

 

「王女さまのこと、好きだった?」
「・・・うん」
「そう。・・・会えて、嬉しかった?」
「・・・うん」
「そう。」

そう言って、僕の腕にもたれる。

「・・・ちょっと妬いちゃった」
え?
「・・・ちょっとだけ、よ」
「・・・妬くことなんてないのに」
「ん・・・そうなんだけど」

答えたフランソワーズの声が揺れた気がして、顔を覗きこむ。

「・・・フランソワーズ?」

 

 

 

 

一瞬、滲んだ涙を、睫毛の下に隠すように目を閉じる。
泣いたらジョーが困るから。

 

ジョーが王女様に心を移していたのは事実だった。

 

もう終わった事よ、フランソワーズ。

そう言い聞かせても、心は波立ったまま。

さっき、グレートにあたってしまった事も後悔しているのに。
妬いて、誰かにあたるなんて、そんな自分は嫌い。
あなたに、見せたくなかった。

・・・だけど。

 

本当は、もうあなたは戻って来ないのではないかと思っていた。
いつもあなたの心は、どこか遠くに行ってしまっていて。
私の事は、まるで意識にのぼっていなくて。

不安だった。

怖かった。

あなたに背を向けられても、私はここに居て闘うことができるのか自信がなかった。

 

 

あなたの指先が、私の頬を撫でる。目元をそっと拭う。

やっぱり見つかってしまった。
こういうのは目聡いひとだから。

 

「・・・妬いてくれたんだ?」

 

あなたはずるい。
甘い声で、そんな事を言うなんて。

私はただ、頷くことしかできなかった。