
−エピローグ−
「あのね、ジョー?」
「何?」
フランソワーズが体を起こしてポケットを探っている。
「ずっと返さなくちゃって思っていたの。・・・この前、あなたの車の中で見つけて、それで・・・」
なかなか言うきっかけがなくて。
そう言った君が差し出したのは、一本の口紅。
「・・・あ」
これは確か、あの日・・・
胸の奥に甘い痛みが走る。
あの日、君がつけたら今よりもっと可愛いだろうなと
君の方が、このポスターの女優よりも絶対似合うだろうなと買った口紅。
だけど、しっかりポケットに入れていたのに、いつのまにか失くしてしまっていた。
あの夜までは、確かに大事に持っていたはずなのに。
そして・・・今まで、ずっと忘れていた。
あんなに、君に渡すのを楽しみにしていたのに。
「誰かの忘れ物でしょう?あなたから返しておいてもらえる?」
少し震える声で言う君の手を握り、ゆっくり閉じさせた。
「これはフランソワーズが持っていて」
「え?だって、これは・・・」
「いいんだ。フランソワーズに渡そうと思っていたから」
「え?」
「・・・似合いそうだと思って」
それでもフランソワーズは、蒼い瞳を丸くしたまま。
「君が持っていて。・・・買うの、大変だったんだよ」
![]()
本当にびっくりした。
あんまり驚いて、ジョーが何を言っているのかわからなかった。
だって。
私に買ってくれたの?
あなたが?
ひとりで出かけて、そして・・・私の事を思い出してくれたの?
あなたが化粧品売り場にいる姿なんて、想像できない。
どんな顔して買ってくれたの?
「・・・見たかったな。あなたが買うところ」
フランソワーズの顔にゆっくりと笑みが広がる。
「・・・嬉しい。ありがとう」
いつも、僕の欲しいものは君が持っている。
いつも、僕の失くしたものは君が持っている。
でも
もう失くさないよ。
ちゃんと胸に抱き締めて、絶対に離さない。
・・・僕の、フランソワーズ。