「大反省会」

メディカルルームのベッドの上に、静かに横たわるフランソワーズ。
呼吸の乱れも無く心電図も正常だ。
ただ、消耗が激しいため数日の安静が必要だという。消耗・・・精神的な。

ベッドサイドにひとりポツンと佇んでいるジョー。
こちらはエネルギーパーツを交換しただけでみるみる回復した。
パーツの破損だけなら、一瞬の治療で済んでしまう。既に加速装置の不具合も是正されていた。

 

・・・フランソワーズ。
ごめん。
守ってあげられなくて。

 

爆風からジョーを庇っていたため、彼女の背中には無数の傷があった。とはいえ、すぐに消える程度。
それでもジョーは自分を許せずにいた。

 

僕はずっと・・・「009」ではなく「島村ジョー」だったんだ。
そうでなければ、自分の行動の説明がつかない。
何故、あてもないのにひとり大森林に入ったのか。彼女を置いて。
何故、サイボーグ犬に襲われた時彼女の名を呼んでしまったのか。
何故、地雷原に無防備に踏み込んでしまったのか。
僕が「009」であったなら、絶対にしなかった。

もし、最初から「009」であったなら。
大森林に入るにしても、彼女を置いては行かなかった。
何故なら、彼女の眼と耳なくして救助隊のところまで行けるはずがないからだ。
サイボーグ犬に襲われた時も、彼女を呼ぶことはなかっただろう。なぜ彼女まで危険な目に遭わせなくてはいけない?
地雷原だって、今までのトラップを考えればまず彼女に視てもらってから進んでいたはずだ。
僕が「009」であれば。

だけど、僕はあの時「島村ジョー」だった。
ただパニックになっていた。君を助けなければと焦り、ただ闇雲に助けを求めて森を彷徨った。
もっと冷静になっていれば、必ず君を連れて行ったのに。
サイボーグ犬に襲われた時も、ただ君の姿が見えないのが不安でたまらなかった。だから呼んだ。
地雷原に入った時だって、君を仲間の元に無事に帰さなければと気ばかり焦ってトラップがある可能性など思いもしなかった。

・・・情けない。

格好悪いな、全く。
君を守れなかったなんて。

君は精神的に限界だったのに。
ひとり事故現場に残されて。
次々に絶命する者がいる中、どんなに辛かったことだろう。
しかも、人質を取られて僕を撃たなくてはいけなくなった。
加速装置が故障してるなんてお互いに知らなかったから、君は僕の左胸を直撃してしまった。
それだけでも酷いのに、彼らは約束を守らず人質は次々に倒されていった。
君は約束が違うと叫び、パニックになっていた。なのに。
僕はどうすることもできずにいた。

メガロが来なければ、あの時二人とも殺されていた。

だけど、その恩人のメガロさえ君の目の前で倒された。
半日のうちにそんな光景が繰り返されたんだ。優しい君にはどんなに辛かったか僕には想像すらできない。
なのに君は、全く動けず役に立たないただの機械に成り下がった僕を見捨てる事もなかった。
僕を叱咤激励し、仲間のところへ帰ろうと頑張った。

けれど、体力的にも精神的にも限界だった君は「一緒なら」果てても構わないと覚悟を決めていた。
なのに僕はそんな君の思いもわからず、彼女を残しただひたすら進もうとした。
きっと酷い男に映ったよね。
なのに君は僕の進む道を透視し地雷を認めると、すぐに僕を抱いてジャンプした。
爆風に煽られても僕を庇った。

どうしてなんだ。

君に酷いことを言って、後にしたのに。
君に優しい言葉ひとつかける心の余裕すらなかった僕なのに。

君はドルフィン号に乗るまで僕の身体を支えて、そして・・・倒れた。

 

フランソワーズ。
君は。

きっと不幸になる。
このまま僕を愛したら。