どうしてフランソワーズが会ってくれないのか、わからなかった。
思わず深いため息をつく。
デッキに出ると先客が居た。
「・・・よお」
「・・・アルベルト」
煙草の火だけが赤く灯っている。漆黒の闇。
僕の顔を見ると唇の端をかすかに上げた。
「・・・何だ。フランソワーズとケンカでもしたのか」
「ケンカ、なら、まだいいけど」
「ん?」
「会ってくれないんだ」
暗い海を見つめ、思わず言ってしまう。
「・・・ほう」
とん、と煙草の灰を落とす音が響く。
「そりゃ・・・お前のあのひとことはきつかっただろうよ」
「ひとこと?」
何の事だろう。
「うーん・・・そうか。自覚してない、か」
空中に紫煙を吐き出す。
「まあ、何だ。彼女もひとりの女の子だってことだ」
――ひとりの女の子。
「だけど彼女は、僕たちの仲間で」
「ストップストップ」
言いかけた僕を制するように片手を伸ばして。
「それはもう、わかったから。・・・そうじゃなくてだな」
アイスブルーの瞳が僕を射抜くようにまっすぐ見つめてくる。
「お前と彼女は好き合った恋人同士だろう?」
「・・・僕たちは別に」
「ああ、それもわかったから。――で、お前はちゃんと彼女をそう扱っているのか?」
「・・・そのつもり、だけど」
「つもりだけじゃな」
伝わらないぞ、と苦笑が混じる。
――恋人として。
彼女を。
・・・だけど。
任務の時は――防護服を着ている時は、彼女もやっぱり「戦士」で・・・
「――お前な」
一瞬、彼の目が険しい色を帯びる。
「もっとしっかりしろ」
そして紫煙が再び辺りを漂う。
「任務の時は、そりゃあ頼りになるさ。「009」の時は、な。だけど、普段はどうだ。勝手に一人でどこかへ出かけて行方不明にはなるわ、
どこぞの王女様とデートしてくるわでフラフラしっぱなしじゃないのか」
返す言葉もなかった。
「お前はフランソワーズに甘えている。彼女だけは、絶対にいなくならないと思っている。
だがな。そんな風に思って安心してたら、突然失うことだってあるんだぞ」
――失う。
フランソワーズを?
「戦士だからとか、サイボーグだからとか、そんな事は後でいいんだ。その前にしなければならない事があるんじゃないのか」
――しなければ、いけない事。
「・・・俺が言わないとわからないか?」
「――いや。・・・大丈夫だ。――たぶん・・・わかったと思う」
そうか、と呟くと、僕に背を向けて海を見つめた。それっきり、こちらを見ない。
――独りにして欲しいという合図だ。
「・・・ありがとう」
声をかけると、アルベルトはそっと肩を竦めてみせた。
もう一度、フランソワーズの部屋へ行く。
僕が、しなければいけない事。
それは――