ドアの外でジョーの声がする。さっきとは少し違う声。
さっきはただ困っていた。でも今は・・・怒っている?
どうしてあなたが怒るの。

「フランソワーズ。開けて」

冷たい、ひんやりとした声が背をなでる。
これは――「009」の声だ。

急に部屋の温度が下がったような感覚に襲われる。

009。

――会いたくない。

「島村ジョー」にも「009」にも。

・・・でも。

同じくらい、会いたい。

突然、湧き上がった自分の思いに驚いた。
会いたいだなんて、何を言っているの私。

・・・でも。

気付くとドアを開けていた。
たった数時間、顔を見てないだけなのに。どうして私は、こんなにもあなたの事が――

 

 

部屋に入ると、ジョーはありがとう・・・と穏やかな瞳で言った。
「009」じゃ、ない――?
けれども、思わず背を向けてしまう。

「さっきはすまなかった」
「えっ」
「僕はきみに酷い事を言った」

それはその通りだったから、私はただ黙っていた。
背を向けたままの私に話し続けるジョー。

「・・・きみは、女の子なのにね」

不意に鼻の奥がつんとした。

「ダメだなぁ、僕は」
修行が足りないね。と、小さく言い添えて。
少しおどけて言っているのに、語尾が震えていた。

思わず振り返る。

――優しい瞳。
そっと、包み込むような。

・・・私も修行が足りないわ。
彼に手を伸ばしながら、そう思った。

 

 

「・・・ねえ、ジョー?」
「・・・なに?」

しばらくして、僕の腕のなかでフランソワーズが小さく囁いた。

「ジョーが時々作ってくれる紙細工・・・折り紙、だったかしら。あれ、教えて欲しいの」
「折り紙?」
「ええ。――今日、イワン、とても頑張ったでしょう。だから・・・」

前に僕が折った鶴をテレキネシスで飛ばして遊んだ事があるらしい。

「イワンに作ってあげたいの」

そう言ったフランソワーズはとても可愛くて、そして、とても・・・愛しかった。

やっぱり僕は駄目だ。
何度、きみのことを愛していると再確認すれば気がすむのだろう。

「・・・あとで教えるよ」

そう言って、額にくちづけた。