戦っている相手、つまり敵に攫われるのは初めてではなかった。 サイボーグとして他の者より非力な私は格好の的だからだ。 そういう足手まといにはなりたくないから、私は極力注意をしてきた。隙をみせないように、攫われないように。 だから。 今のこの状況は、彼にとって痛恨の極みだろう。
私は体を起こしてみた。 薬物でも投与されたのだろうか。 いったいここはどこなのだろう。 そして、いまはいったいいつなのだろう。 攫われてどのくらい経っているのか、それも定かではなかった。
戦況は。
そして。
……009は。
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攫われたのは索敵をしている最中だった。
自分のことは二の次。 それは、003として機能してからは当たり前のことだった。自身を犠牲にして仲間を助けるなどという崇高な思いなどではなく、ただ、それが私の役目なのだとそう思っていた。 だってサイボーグなのだ。それも戦うための。 だから私が「眼」と「耳」を使って戦うのは当たり前のことだった。 しかし、「レーダー」として機能している間の私は、それこそ格好の的だった。 もちろんそんなことはみんなが知っていたから、最前線に出ることはなくいつも常に後方に位置していた。 そこを狙われた。 ほんの数分――あるいは数瞬――手薄になった隙を衝かれた。 ただ、安全な場所にいたはずなのに攫われたということだけは事実だった。 そこで敵に攫われるなど誰が予想できただろう?
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思えば、敵は何かシールドのようなものを使っていたのだろう。 私は改めて周りの様子を探ってみた。
……。
何も見えない。
それさえもわからない。 攫われて、目覚めたらここにいた。単純に考えれば数時間といったところだろう。
ちょっと待って。
意識はずっと保っていた?
なにこれ。 全く記憶にない。
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敵は時々姿を見せるようになった。 そう考えると、今も誰かがそばにいるようでぞっとする。 そうやって精神的苦痛を与えようとしているのだろうか。私にとって、ここにこうしてただ捕らわれたまま何もできないということだけで十分な苦痛であるのに。 そう――何もできない。 サイボーグであるというだけでなんの力もないのだ。 私はそう推測していた。 だからなぜ、敵がここに来て姿を見せるようになったのか目的がわからなかった。
敵は食事を運んで来るだけだった。 話は何もしない。 注射もしない。 薬物は――もしかしたら食事に入っているのかもしれない。でも、かといって全く口にしないわけにもいかなかった。 それは、攫われてしまった時の私の最低限の決め事だった。
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一週間が経った。 正確には、ここに来て目覚めて食事をするようになってから一週間ということだ。 依然として、ドルフィン号からここまでどのくらいの時間が経過していたのかわからないし更にはここに来て目覚めるまでどのくらい経っていたのかもわからないままだった。
攫われてから助けが来るまでこんなにかかったことはなかった。大抵は一日か、長くても三日。そのくらいだった。 この場所がわからなくて難渋しているのだろうか。 ありそうなことだった。
そんなことはない。
私はまだ楽観的に考えていた。 この時は、まだ。
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