「協力する気になったかい、フランソワーズ」
だから協力してくれないかなぁとのんびりと言う。まるで天気の話をしているかのように。 冗談じゃない。
それは一番初めのテストの時にやってすぐに嘘だとばれてしまった。 「いや、嫌味を言ってるんじゃないさ。あの時のきみはかわいかったなぁと思ってね。抵抗のつもりだったんだろう?」 …そうだけど。 「嘘もデータになるからいいんだよ。あれもとても役に立った。だからきみは貴重な被検体だったのに。僕から逃げるんだもんなぁ。本当にずっと心配だったんだよ?ギルモア博士のメンテナンスで大丈夫かなって。きみの目と耳はとても繊細だからね、本当は専門医じゃないと駄目なんだ。僕みたいな、ね」 別に不具合は無いし、実際、「普通に見えて聞こえ」ればそれで良かった。 「まぁとにかく、早く決心してくれないときみの大事な仲間がとても困ったことになってゆくよ。わかってる?特にきみの009が、ね」 きみの009。 私の009。 私の――ジョー。 私が協力しない限り彼は助からない。 と、この医師は言っている。 けれど。
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私は、敵に攫われることに慣れていた。取り引きの条件にされることも。卑怯な手段に使われることも。 でも、だからこそ知っている。 その「条件」にされている間は絶対的に安全なのだということを。 実は仲間の前に引き出された時が一番危険なのだ。取り引きが破綻してもしなくても私は危害を加えられる。 だから。 今、取り引きの条件になっているのは009。 だから、大丈夫。 今現在、009も仲間もみんな無傷でいるはずだ。 もし私が「協力するからみんなを助けて」と言って、実験のテストを始めてしまったらその時こそ用済みとなったみんなは、009は抹殺されてしまうだろう。 だから私は絶対にイエスとは言わない。 言わない間は彼らは絶対に大丈夫なのだから。
「うん?――フランソワーズ、何を考え込んでいるんだい?」
私の目。 彼の興味は私のこの眼だけなのだ。
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「まったく。きみも009も強情だよなぁ。そうそう、こんなことを言っていたよ。僕はどうなっても構わない、だから実験に協力なんかするな――ってね。泣かせるねぇ。どうなっても構わないって。言われなくてもどうとでもするのに」
話が…違う?
加える?
だって、だって009は――ジョーは。 自分がサイボーグであることでとても苦しんで――
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ラボが見える。
幾人かの白衣を着た医師もしくは科学者が集まって、なにやら相談しているようだった。 手にしているのは、――設計図?
いや、違う。
あれは。
あれは――009の解剖図、だ。
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