009に改造手術を施す。
どうしよう。 どうしたらいい? もちろん、私が実験に協力すると言えばいいのだ。 私は心を決めた。 けれども、こういう時に限って誰もやっては来ない。 いらいらする。 こっちが心を決めて返事をしようとしているのに、誰もいないのだ。 まさか――そんな。 ううん、落ち着くのよフランソワーズ。
彼らが嘘をついていたとしたら。 私は白い部屋のなかをうろうろと歩き回っていた。
「おや、今日はどうしたんだいフランソワーズ」
「いつもはじっと座っているのに今日は妙に落ち着きがないね」 ――伝えなくては。 「…もしかして決心してくれたのかい?実験に協力してくれるって」 頷く。 「本当かい?嬉しいなぁ」 だから早くジョーを。009を解放して。 「そうかそうか。きみは僕らの仲間になるんだね。そうと決まったら、さっそく準備をしなくちゃ」 え、ちょっと待って。その前にジョーを。 「あ…っと、その前に」 ええそうよ、その前に009を解放してくれなければ話が違う。 「――その前に、フランソワーズ」 目が合った。 「きみが本気だということを証明してもらわないとね」 証明? 「実験に協力してくれるなら、正確なデータが欲しい。もちろん、嘘をつかれてもそれも確かにデータには違いないし、使えないことはない。でもやはり最初はちゃんと真面目にやって欲しいんだ。だってきみは僕たちの仲間なんだからね。どうせ実験をするなら、ちゃんと仲間になったという確証が欲しいしいなくならないという証明も欲しい。今度こそ勝手に逃げ出したりしないという」 ――逃げたりなんか、しない。だって私だけ逃げるわけにはいかない。 「だから…ね?きみがもう009なんかのことを忘れるようにしたいんだ。だって思いが残っていればいつか彼の元へ行きたくなってしまうだろう?それじゃあ困るんだ」 009のことを忘れる。……記憶操作でもしようというのだろうか。 「記憶操作だけしてもいいんだけど、それじゃあいつか何かのきっかけで思い出す可能性がある。だからちょっとトラウマを作らせてもらうよ?」 トラウマ? 「そう――例えばきみが他の男のものになったとしたら、きみはもう009の元へは行きたくないだろう?」
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009。
金色に近い褐色の髪。 哀しい気持ち。 辛い気持ち。 でも、とても優しくて温かくて、――大好きなジョー。
もしももう二度と会えなくても、それでも私はあなたのことを思っている。 あなたが生きていてくれればそれでいいの。 幸せに。
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003の行方は杳として知れなかった。
そうして無為に時間だけが過ぎてゆく。
――003、は。
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