「009が大好き」
〜「焦りと劣等感を抱く」より〜

 

 

落ち込んでいる時のジョーはやっかいだ。


もちろん、彼が落ち込んでいるのかどうかはすぐわかる。
それはもう誰の目にも明らかで、明らかすぎるから、もしかしたら初対面のひとでもわかるかもしれない。
そのくらいわかりやすく落ち込んでくれる。

そして、だからこそやっかいなのだ。


ジョーが誰にもわからないように落ち込んでいる時は、それはもう深刻で一大事なのだけど、でも・・・まだ、いい。
いい方なのだ。


だって。

私以外の誰かでも、彼の力になることができる。
普通なら、落ち込んでいることを隠しているときのほうがやっかいなのではないかと疑問に思うだろう。
でも彼に限ってそれはない。
深く落ち込んでいたとしても、例えば――そう、ピュンマのようにクレバーな相手やハインリヒやジェットのように年上の懐の深いひとが相手なら、少しずつでもジョーは心を開いてくれる。だから大丈夫なのだ。私じゃなくても。

でも。

誰の目にも明らかな様子で落ち込んでいる時は、私以外の誰かでは絶対に無理なのだ。
私しかいない。ジョーを立ち直らせる事ができるのは。
きっとそれは、傍から見れば落ち込んでいるというより拗ねているという状態により近いのかもしれないから、構ってあげる役目は私しかいないということになるのだろう。

それはそれで、恋人同士としては嬉しい事なのだろうけれど、でも。
やっぱりどう考えてもやっかいなのだ。

たいく座りしている時のジョーは。

 

 

   

 

 

「ジョー。いったいどうしたの?」


私は彼の隣にしゃがみこむと、その髪にそっと触れた。
ジョーって髪の量が多いのね。禿げる心配はなさそう・・・サイボーグだから、関係ないけど。

「ジョーが落ち込むようなことは何もないでしょう?」
「あるよ」

むすっとした声。

「ないわよ」
「ある」
「じゃあ、言ってみて」
「・・・」
「わからないもの、私には」

ジョーは鼻を鳴らすと低い声で言った。

「・・・フランソワーズは僕なんかどうでもいいんだろ」
「そんなわけないでしょ?」
「聞いたんだ。だから、嘘ついてもわかる」
「聞いたって誰に何を?」
「・・・さっき」

さっき、って・・・ミッションの最中じゃない。

「・・・訊かれてただろ。009とどういう関係なのか、って」
「え?・・・ええ」
「仲間って答えたよね」
「だって。仲間でしょう」
「・・・アイツ。僕にもチャンスはあるとかないとか言って」
「でも断ったわよ?ちゃんと」
「相手は納得してないよ」
「してるわよ。好きなひとがいますって言ったもの」
「それは僕なのかどうかわからないじゃないか」
「・・・そう?」
「・・・だって。フランソワーズは可愛いし綺麗だし優しくて頭もいいし、僕なんか本気で相手になんか」
「ジョー。そう言って私を相手にしてくれてないのはあなたのほうよ」

ジョーが顔をあげた。

ゆっくりとこちらを見る。

「フランソワーズ。そんなわけないよ」
「だって。そんな風に高嶺の花のように言われたら、あなたは花を取りに来てはくれないのね、って思うもの。・・・落ち込むのは私のほうだわ」
「そんなことないよ!」

ジョーは、たいく座りを解くと私を両手で抱き締めた。

「何度でもトライするさ。どんなに険しくても」

そうじゃないと、泣くだろう?

そう耳元で言われ、私は小さく頷いた。

あなたが落ち込むとやっかいなのは、私も一緒に落ち込むから。
でも、いつでも一緒に浮上するわ。必ず。

「・・・009が大好きなんて他のひとには言わないわ。ジョーにしか言わない」

だから、落ち込まないで。
いつだって、あなたは自信を持っていていいの。

 

あなたに釣り合う女の子なのかどうか、自信がないのは私。

 

でもそれは、私の胸の奥にしまっておく。