フランソワーズは昔、どんな女の子だったんだろう?

 

 

そう思うのは今に始まったことではない。

バレエひとすじで、踊るのが大好きだったのは知っている。本人がそう言っていた。
レッスンの帰りに寄るカフェのケーキが大好きで、お兄さんが大好きで。


そう――彼女の過去は、大好きなもので溢れている。僕とは正反対だ。

きっと、全てがきらきら煌いていたに違いない。闇に潜んでいた僕とは大違いだ。
だから僕には、彼女の世界がどんなものなのかわからない。想像することすらできない。

なにもわからない。


彼女が楽しげに語るのを見るのは好きだし、昔を思って笑うのも好きだ。
ただ、その後に必ず寂しそうになるのは胸が痛むから、あまり思い出して欲しくはないというのも本当。


楽しそうに過去を語るフランソワーズ。

本当にバレエが好きだったんだね。

 

 

・・・恋人はいなかったのかな。

 

 

ちょっとだけ気になった。

 

だって、こんなに可愛いんだ。相当もてただろう。
ボーイフレンドのひとりやふたりやさんにんくらい、いてもおかしくないし、秘かに彼女に思いを寄せる奴もいただろう。

フランソワーズは何も言わないけれど。
何も言わないから、きっと言いたくないのだろう。

だから僕も訊かない。

訊いても、胸の奥に黒いものが蠢くだけだし、落ち着かなくなるだけだろうし。

それに、全ては過去のことだ。

 

大事なのは今だ。

 

こうして腕のなかにいるフランソワーズが僕にとっては何よりも大事だ。

過去なんてどうでもいい。

なくたって構わない。

 

それを言うなら、いまこの時がこのまま止まってしまっても――未来永劫、時が動き出さなくなっても僕は全然構わない。
むしろ、変わっていくであろう未来が怖い。


だから、このままでいい。

 

いまこの時は、僕の――僕だけの、フランソワーズなのだから。