「ヤキモチを隠しきれない」
〜「恋にありがちな20の出来事」より〜

 

 

要救助者が女の子であることは多い。

そして、彼女を守りながら戦うことができるくらいの戦闘能力・機能を持っているのは、一番最後に造られた009であり・・・その結果、
009が女の子を護るというのは当然の帰結である。

そんな事はわかっている。

ずっと前から知っている。


だけど。

前と違うことがひとつだけある。


それは、私。

私の「キモチ」。


以前は009に対して特別な感情など持っていなかった。
ただのかわいそうな男の子で、だけど009の時は頼りになる最強のサイボーグで・・・

それだけだった。

だから009が誰をどんな風に守ろうと気にしなかったし、彼が要救助者を護るのは能力が高いのだから当たり前とさえ思っていた。


でも、今は違う。


彼が守る女の子が気になる。
彼が何を囁き、どんな風に安心させ胸に抱くのか。

そして・・・うらやましくなる。
私は003だから、あんなふうに守ってもらえることなどない。

もちろん、それでいい。だって私は003だから。


だけど。


もし、生身の女の子であったなら。
私も「009」に大事に大切に守られる機会もあったのかもしれない。

――うらやましい。生身である彼女たちが。

――うらやましい。009に守ってもらっている彼女たちが。

あんなに大事にされて、優しく見つめられたら・・・誰でも009を好きになってしまう。009にその気がなくても。

 

・・・あるのかな。

 

だって、要救助者である女の子は、なぜかみんな可愛い。
そんな子に頼りにされて信頼されたら、誰だって・・・。

そう思う時、私の心の中は嫉妬でいっぱいになる。憎みや妬み。最も汚い気持ちで充満してしまう。
009の一番近くにいるのは003である私なのに。なのにどうしてこんなに遠いの。

そんな瞳であの子たちを見ないで。

大切そうに抱き締めたりしないで。

 

見たくなかった。

 

 

 

落ち着いて考えてみれば、何も女の子を守っているのは009だけではないとすぐにわかる。
002や004、008だって要救助者を守りつつ戦っている。
だから、009が彼女たちに「特別に」優しくしたりしている訳ではないこともちゃんとわかっている。
他のメンバーが要救助者にするのと同じ事をしているだけだ。
004だって、女の子に優しくしたり、抱いて庇ったりしている。002だって、008だって同様だ。
そして、みんな同じように女の子に頼りにされ、時には愛の告白も受けたりしている。
彼女たちにしてみれば、何よりも自分を守り通してくれた目の前のひとに好意を抱くのは至極当然のことであり、素直に自分たちの気持ちに従っているだけだ。

それだって、ずっと前から知っている。

だけどいつからか、私は009だけが気になるようになってしまっていた。

いくら「彼のしていることは他のメンバーと同じ」と思っても、彼が女性を胸に抱き締めているのを見ると落ち着かなくなる。
胸の中が波立って、真っ黒い闇に覆われていくように自分の心の中が変わってゆく。


好きなのに。

009のことが大好きなのに。

なのに「好き」という気持ちだけではいさせてもらえない。あっという間に闇に支配されてしまうこともある。
そんな自分は嫌なのに。
何にも悪くない彼女たちに嫉妬して、意地の悪い気持ちになって。更には009さえ嫌いになってしまう。

 

好きなくせに。

 

こんな自分は嫌だ。
009に知られたら、きっと軽蔑される。だって009は私のことなんてそういう対象にすらみていないのだから。

完璧な私の片思いなのに、勝手にヤキモチやいて――勝手に好きになって勝手に嫌いになって。

そんな自分は嫌い。

でも。

こんな気持ちをいつまで隠しておけるのか、私は全く自信がなくなっていた。