「とんだ旅行になったね。フランソワーズ」
ええ、本当に。
ジョーとふたりっきりの遺跡巡りの旅行は思いがけない形で終わった。
――まったく。
小松博士に責任はないけれど、でも――どうして私たちはこう事件に遭遇してしまうのだろう。
せっかくの旅行だったのに。
しかも、そこはかとなくハネムーンみたいな雰囲気だったのに。
いつもはジョーがふらりと勝手にどこかへ行ってしまったり。
あるいは、あくまでも任務でみんなと一緒の調査だったり。
そんな旅ばかりだった私たち。
だから、ジョーと二人だけで、任務でも何でもないただの旅行というのは嬉しかった。
ドルフィン号でひとっとびではない、現地の汽車を乗り継いで、長時間バスに揺られて。
そんな旅行は疲れるかもしれないなとジョーは笑っていたけれど、私は全然平気だった。
だって、時間をかけての移動ということはジョーとふたりっきりの時間が長いということだ。
現地のひとに紛れた私たちは、傍からみてもただの旅行者に過ぎなかった。
サイボーグであるということもともすれば忘れてしまう。
そういう大切な時間だったのに。
慌しく日本に帰ることになった。
とはいえ、すぐに交通手段を都合できるわけもなく、私たちは来たときと同じように長時間バスに揺られ汽車を乗り継ぐことになった。
帰りはふたりとも無言だった。
現地の警察官にあれこれしつこくされて疲れたのかもしれない。
特にジョーは日本だけではなく関係各所へ連絡をしていたから私より数倍疲れているはず。
来る時はきらきらして見えた景色も今はくすんでいるようで、私は窓外を見るのをやめて隣のジョーを見た。
眠っていた。
腕を組んで。
こっくりこっくり。
――そうよね。
疲れているんだわ。
私はゆらゆらしているジョーの頭が不憫で、腕を伸ばしてそっと自分にもたせかけた。
顔が近い。
じっと見つめていたら、なんだか気恥ずかしくなってしまった。
見慣れているはずなのにどうしてかしら。
もう、ジョーのばか。
つんと鼻をつついてみた。
起きない。
びくともしない。
ちょっと考えて、頬をぷにぷにしてみた。
やっぱり起きない。
すっかり熟睡しちゃってるんだ、つまんないの。
私だけひとりぼっちじゃない。
と、思っていたら。
ジョーと目が合った。
「――ひとの顔で遊ぶな」
「あら、遊んでないわ」
ジョーは眉間に皺を寄せると体を起こして私の目をじっと見つめた。
「な、なあに?」
「うん――」
ジョーは何も言わず素早く私の頬にキスをした。
「ちょっ、ジョー?」
「おやすみ」
動揺する私をおいて、ジョーは再び目を閉じた。
唇はちょっと笑っているようだった。
「もうっ…いやなジョー」