背中を任せられる相手なんてそういないと思う。
ジョーと背中合わせになりながらフランソワーズは今さらながら考えていた。
そんな悠長な場合ではないにも拘らず。
背中合わせというのは、自分の命を相手に預けていると共に相手の命をも預かっている。
まさに一心同体――といってもいいだろう状況。
よほどの信頼関係がなければ成立しない。
その相手が、ジョー。
それは――喜んでいいことなのだろうか。
あるいは。
哀しむべきことなのかもしれない。
「背中合わせ」
「そんなこと考えてたのかい?ヨユウだなぁ」
数時間後、ベッドの上でジョーが笑った。
「僕はそれどころじゃなかったよ。敵はひっきりなしだし。…まぁ、確かに背後はきみに任せていたから幾分楽だったといえばいえるけど」
幾分楽。
それはジョーの思いやりだろう。
フランソワーズがどう思っていようが、彼にとっては背後に彼女がいるという事自体、余計な荷物を背負っているのと変わらないだろうから。
自分だけを守ればすむところを二人分の仕事をしなければならない。
いくらフランソワーズが武器を手にしていたとしてもである。
「…でも僕としては多いに不満だね。基本的にきみには戦って欲しくはないから」
渋い顔をするジョー。
それもフランソワーズはわかっていた。
互いに背中を任せられる相手なんて自分勝手にそう思っているだけに過ぎないのだ。
戦力にはほど遠い。
けれども、ただ守られるだけの存在になりたくはないのも事実だった。
だから、ジョーの背後に隠れ庇われるのではなく背中合わせになるということはフランソワーズにとって重要だった。
やっとそんなポジションを取れるくらい、ジョーに信頼してもらえたと――僅かでもそう思えるから。
「それは私も同じ気持ちよ、ジョー」
「そうだろう?きみは闘い向きじゃない」
「違うわ、そうじゃなくて」
「うん?」
フランソワーズはジョーの隣に横たわると彼の腕に頬を寄せた。
「あなたに戦って欲しくはないという意味」
みんなはジョーが戦うのは当然のように思っているけれど、フランソワーズは違った。
ジョーはもしかすると自分自身でも戦い向きだと思っているかもしれないけれど、それでもフランソワーズはそうではないと思っている。
彼の過去が闘いばかりだったかどうかは知らないし、実際にどんな敵とどんな風に戦っていたのかも知らない。
でもだからといってこれから先、ずっと戦わなくてはならないとは限らないのだ。
「それは無理だよフランソワーズ。僕は009だぜ?」
ジョーがフランソワーズに腕を回して抱き寄せる。
「だから?」
フランソワーズはジョーにぴったりくっつくと甘えるように言った。
「だから、…戦うっていうことさ」
「009にそんな使命はないわ」
「あるさ。一番性能がいい」
「それは最後に造られたからでしょう。もし100体になっていたら009なんて旧式よ?」
「旧式って、酷いなぁ」
「だから別に使命なんかじゃないってこと」
「うーん」
そうかなぁとのんびり言うジョーにそうよとフランソワーズは答えた。
本当は二人ともわかっている。
現状では、やはり009が闘いの要にならざるを得ないということを。
でも今はそれを言いたくない。
知っているふりもわかっているふりもしたくはなかった。
背中を任せられるくらいの信頼は嬉しいことかもしれない。
でも、そういう状況に在るふたりというのはやっぱり――哀しいことよね、ジョー。