I僕の部屋君の部屋、自分たちの家

 

ドアを開けると真っ暗だった。
カーテンを引いていない窓から差し込む月光を受けて、室内は青白く輝いている。

部屋の主はベッドの上にいた。上半身を起こし、射るような瞳でまっすぐにこちらを見つめている。

「・・・ひとりにしてくれないか」

その声は普段の彼のものとは程遠い、地を這うような低温だった。

「いったいどうしたの」

ドア口で気圧されたように立ちすくむ。ただならぬ気配に眉をひそめて。

「――どうもしない。俺のことはいいから」
「よくないわよ、ねえいったい・・・」

思わず数歩前進する。スリッパに包まれた爪先が闇に呑まれる。
構わず、さらに数歩進み、彼の傍らで立ち止まった。肩に手をかけようとしてするりと身をかわされる。

「ジョー!」
「うるさい。構うな」
「そんなわけにいかないわ、だって・・・」
ケガしてるじゃない。

「いい。何でもない。放っておいてくれ」

肩を揺すると、ジョーはフランソワーズを睨むように見据えた。
月光しか届いていない室内だったけれど、009と003の視力には何の影響も及ぼさなかった。
だからわかってしまう。褐色の瞳の色が。その根底にある意味が。

「・・・わかったわ」

辛そうに、絞り出すように返事をして、フランソワーズは伸ばした手を引いた。

ジョーは手負いの獣のようだった。
傷を隠そうとしているのか、瑕を隠そうとしているのか。
その真意はわからなかったけれど、ともかく――その目はひとりにしてくれと訴えていた。
いったい彼に何があったのか。
今朝はいつもの彼だった。が、今は――まるで出会った頃のような彼だった。
頑なで。自分の殻に閉じこもって。自分の周りは全て敵としか思わなくて。そんな寂しい瞳をしていた頃の。

彼がひとりにしてくれというなら、そうするほうがいいのだろう。

フランソワーズはそう思い、肩越しにジョーを振り返りながらも部屋を背にした。
ドアに手をかける。

「・・・じゃあ、行くわ」