「――なんて言うと思ったら、大間違いよ!」 言いながら、フランソワーズは照明のスイッチをオンにしていた。 「・・・え。フランソワーズ?」 睨みつけるのも忘れ、きょとんと目を見開いているジョー。 「え、じゃないわよ、まったくもうっ!貸しなさいっ」 あっという間に部屋を横切ると、ジョーの面前に腰掛け、彼の手から包帯をもぎ取った。 「ダメじゃない。ちゃんと消毒しなくちゃ。それに――ああもう、何よこの巻き方!ゆるゆるじゃないの」 傍らに置いてある救急箱からオキシドールを取り出し、滅菌済みのパッケージに入っている綿球をピンセットでつかみ浸す。そしてそれをジョーの胸と腕の傷にあてる。それから、今度はイソジン液に浸した綿球を傷口にあて、そうしてから滅菌済みのパッケージにはいったガーゼを当ててテープで留めた。 「・・・あのさ、」 手早く包帯を巻き始めるフランソワーズにされるがままになっているジョー。 「ねえ、フランソワーズ」 仕上がりに満足そうに頷き、救急箱のフタを閉じた。 「フランソワーズ」 「あら。それなのにちゃっかり包帯を巻いていたひとは誰?」 「――まったく、もう。いい加減にしなさいね?あなたもジェットも」 唇を尖らせ、不機嫌に言うジョーをちらりと見つめ、フランソワーズは次の瞬間、ジョーの両頬をむにっと引っ張った。 「反省し・な・さ・い」 解放された頬を両手で撫でながら憮然としたまま答える。 「あんなことでケンカするなんて」 そっぽを向く彼の耳を引っ張る。 「ちゃんとこっちを向きなさい」 蒼い瞳が至近距離に迫る。怖い。 「ジェットがコーヒー牛乳を飲んだっていいでしょう?まだイチゴ牛乳が残ってるんだから。あなたはどっちでもいい人じゃないの」 お風呂上りに飲むのは牛乳だった。特にジョーは、イチゴ牛乳やコーヒー牛乳などの甘いのが好きで、何かしら色のついた牛乳があればそれでいいのだった。だから、今日みたいにコーヒー牛乳にこだわる理由などないはずなのだ。 「仲良くお風呂に行ってると思ったら。上がった途端、競走しながらキッチンの冷蔵庫を開けるなんて子供みたいだわ」 むっつりと黙り込むジョー。 「・・・全裸で取っ組み合いなんて、恥ずかしくないの?」 視線を逸らすジョーの顔を両手で包んで自分の方を向かせる。 「私たちは家族でしょう?ジェットもあなたも。兄弟みたいなものなんだから。仲がいいからケンカするのはわかるけど・・・」 ケンカのことを怒っているのではなかった。そうではなく、ジョーがケガをしたことを隠そうとしたのが許せなかった。 「内緒にしておくつもりだったの?ケガをしたこと」 ぽつりと言ったジョーを抱き寄せる。 「バカね。私が心配すると困るの?――心配くらいさせてちょうだい」 しばらくして、ジョーが不満そうな声で言った。 「そういえば、さっき俺たちは家族だって言ってたけど」 ちゅ、とフランソワーズの唇にキスをする。 「・・・バカね。私たちのはそういう意味の家族じゃないわ」 「え。それってどういう――」 フランソワーズの唇に阻まれ、最後まで言えなかった。 ――本当に、バカなんだから。でも、そんなところも――好きよ。ジョー。
|