「からかってみたくなる」
〜恋にありがちな20の出来事より〜

 

いつでもつい構いたくなってしまうのは何故なんだろう。
髪を引っ張ったりとか、肩を叩いて知らぬ顔をしてみせる、なんてことはとうに卒業しているはずなのに。
なのに、フランソワーズを見るとこう・・・手が伸びてしまう。

「あっ、もうっ。またジョーなの?髪を引っ張らないでって言ってるのに」
「ええっ、僕じゃないよ」
「いまここにはジョーしかいないでしょう?」
「幽霊かも」
「幽霊は髪を引っ張りません」

僕を軽く睨みながら、ずれたカチューシャを直している。
僕はフランソワーズがこちらを向いているのが嬉しくて、つい笑ってしまった。

「なあに?何かついてる?」
「いや」
「じゃあいったい何なのよ。ひとの顔みて笑うなんて失礼よ」

どうやら真剣に怒っているらしい。
でも僕の笑いはおさまらなかった。

何故なら、わかってしまったんだ。

僕がフランソワーズに構う理由。

あまりにも子供っぽくて、我ながら少し情けなくて。
でも、そんな自分が嫌いではなくて。
ああ僕はこんなにフランソワーズが好きなんだと、そう確認するのが嬉しくて、くすぐったくて。

「もう・・・ジョーったら」

笑い続ける僕を見て、フランソワーズも少しずつ笑顔になってゆく。

「いっつも邪魔するんだから、何にもできないわ」


君が見つめるもの。

君が夢中になるもの。


君が僕に横顔を見せる時、僕は君を構ってしまう。


それは、

いつでも僕のほうを見ていて欲しいから。

 

 

***

 

 

「ジョーって子供ね。注意を引きたいからからかったりするなんて」


フランソワーズが僕の肩に額を寄せる。


「あなたを忘れることなんてないから、安心してていいのに」
「・・・うん」
「私は見える範囲にあなたがいてくれれば安心するわ」
「うん?」

見える範囲?

「見える範囲ってどのくらい?」
「そうねぇ・・・半径50キロくらいかしら」
「なんだそれ」

範囲が広すぎるよフランソワーズ。

僕は悔しかったから、フランソワーズとの距離をゼロに縮めた。


「もうっ、ジョーったら。ちょっとからかっただけでしょう?」

くすくす笑うフランソワーズ。

「すぐ引っ掛かるんだから」
「うるさいな」

見透かされているようだったから、僕はこれ以上何も言われないようにフランソワーズの唇を塞いだ。

今日、何度目のキスだったかなあと思いながら。