B<合鍵>

 

「――ねぇ。登録するのってこうでいいのかしら?」
「んー?・・・ああ、そう。そこに手をかざして――これで大丈夫」

ジョーのマンションのエントランス。
ここのメインの鍵は指紋認証なのである。
居住者とその家族1名のみ登録ができるようになっていた。
なので、さっそくフランソワーズも登録をしたのだった。

「・・・ね。ジョーって今までずうっとここに住んでいたんでしょう?」
「買ったのは随分前だけど、『住んでる』っていうくらい居たことはなかったな。遠征が多かったし、特にここに帰る必要性もなかったし」
「ふうん・・・」
「なに?」

登録したのは私が最初なの?

とは、さすがに訊けなかったので、代わりにこう言った。

「いいの?登録しちゃったら、私、しょっちゅう来ちゃうわよ?」
「いいよ」
「ジョーがいなくても来ちゃうかもしれないわよ?」
「いいよ」
「連絡しないで来ちゃうわよ?」
「いいよ」
「時間も関係なく、突然来るかもしれないのよ?」
「いいよ」
「・・・・」

まじまじとジョーを見つめる。

「・・・本当に、来ちゃうわよ?」
「いいよ」
「・・・住んじゃうかもしれないわよ?」

すると、ジョーは一瞬黙って、

「そうしたら、帰ってくるのが楽しみだな」

にっこり笑んでそう言った。
とはいえ、彼が真っ先に帰ってくるのはやっぱりギルモア邸なのだったけれども。

 

 


C<食事当番>

 

ギルモア邸での共同生活において、それぞれ各人に割り振られているものがある。
それは、持ち回りの当番制であったり、固定制であったりするのだが。
食事当番は、持ち回りの当番制だった。――が、免除されている者も、いた。

島村ジョー。009。

彼に「食事当番」が回ってくることはない。

 

「だって、『当番制』にしているのに、ひとりじゃ何にも作れないんだもの。インスタント食だとか、ピザをとってごまかしたりとか――私たちはいいけど、博士が可哀相よ」
「ひどいなぁ。博士だって、たまにはこういうのもいいのうって嬉しそうに食べてたのに」
「ダメよ。血圧とか、血糖値とか――色々と気にしてるんだから」
「博士は別に気にしてなさそうだったけど?」
「私が気になるの!」

はぁ、そうですか・・・

「それに、私の当番の時は邪魔ばっかりするし」
「――してないよ」
「誓って言える?」
「・・・・」
「だから、――ああもうっ。言ってるそばから。手を離しなさいってば」

島村ジョー。

後に彼には、「キッチン入室禁止令」も発令されたのだった。