コスプレ/新ゼロ


@猫耳

 

「ほう、可愛いな」
「うん、可愛い可愛い」
「それ一日中やってんのか?――へえ・・・罰ゲームか何か?ん?あ、違う?あ、そう」

猫耳のついたカチューシャ。
なぜか今日はそれを一日中つけていることになった。
なぜなのかは訊かないで欲しい。
そう――ちょっとした賭けに負けたとでも言っておけばいいだろうか。そんなところ。

ギルモア邸に戻ってからずっと、初めて見た時はともかく、すれ違うたびにみんなニヤニヤしながら何かコメントしていく。時には頭を撫でられたりもして。

「似合うなあ。これから毎日それでもいいんじゃないか?そうしろよ。な?」

冗談じゃない。

「いや、本当に似合うって。可愛いぜ。惚れちまうかも」

・・・・。

「なに複雑な顔してんだ、冗談だ、って」

ジェットがカラカラ笑う。
黙ったままでいると、背後から能天気な声がした。

「つきあっちゃえば?ジョー」

だから、冗談じゃない、って!!

 


Aセーラー服

 

「今時珍しいみたいね、セーラー服って」

フランソワーズがくるんと一回りしてみせる。
白とブルーのコントラストが眩しい。

「パリでは制服なんてなかったから、なんだか新鮮だわ」

潜入捜査でとある高校に行くことになったのである――が。

「――でも生徒じゃなくても良かったんじゃないのかな。新任の教師とか」
「あら、知らないの。そうそう簡単に教師が増減するものではないのよ」
「そうなのか?」

高校にはまともに通ってないから知らなかった。

「いくらイワンでも難しいみたいよ?だから、転校生のほうがいいの」
「ふうん・・・でもさ、高校生って十代だよな」
「――あら。何が言いたいの?」

蒼い瞳がすうっと細められた。

「あ、いや、別に」
「老けてる高校生って言いたいんでしょ?」
「違うよ」
「でもそんな事言ったら、ジョーのほうがよっぽど変なんだから!」

ジョーは我が身を見直した。

変だろうか?

しかし、変なところは思いつかなかった。

「別に――変なところはないと思うけど」
「ネクタイはどうしたの」
「ここ。ポケットのなか」
「シャツのボタン、ちゃんと上まで留めなさい」
「苦しいからヤダ」
「だったら、せめてブレザーのボタンくらい・・・」
「やだよ、みっともない」
「じゃあ、ブレザーの袖をまくるのはやめて」
「こういうほうがいいんだ、って」
「もうっ!どうしてそう不良な格好なの!」
「不良?こんなの全然だよ」

ジョーはちゃんとした制服の着方を知らなかった。

 



Bバニーさん

 

「ねぇ、ジョー・・・いつまでこの姿でいればいいの?」

フランソワーズは不安そうに尋ねた。

「いつまで、って・・・たぶん、もう少しだと思うけど。ところで何か見えるかい?」
「ううん。全く変化なしよ」

とあるパーティの潜入捜査であった。
フランソワーズはバニーさん。ジョーは客として、彼女の盆からシャンパンを受け取ったところだった。

「もうかれこれ二時間よ?いくら何でも遅すぎない?私たちのことがばれたんじゃないかしら」
「そんなことないさ。大丈夫だよ」
「でも・・・」

フランソワーズはそうっと周囲を窺った。でもやはり何も怪しいところはない。

「ねえ。今回は何もなかったってことじゃないのかしら」
「いや――たぶん、敵が狙うとしたら終盤だろう」
「それまでこの格好?」
「ああ」

フランソワーズは頬を膨らませた。が、ジョーには全く効き目がなかった。
べーと舌を出してみせてもまるっきりの無反応。

「いいじゃないか、人気者みたいだし」

涼しい顔で言って笑った。

「もう。大変なのよ、色々と」
「だろうね。もうしばらくの辛抱さ」

 

 

***

 

 

広いホールの反対側にはジェットとピュンマがいた。ふたりともスーツ姿で客の扮装である。

「・・・アイツ、周りがちょっと退いてるの気付いてないだろ」

ジェットが目でジョーを指す。

「気付いてないだろうな。あの様子じゃ」
「けど、大の男があれはないだろうよ」
「いいんじゃない?どうせオタクのパーティだ」
「それにしてもさ。だったらフランソワーズにメイドの格好でもさせりゃよかったじゃねーか」
「そんなことしてみろ、ジョーの奴、アブナイオタクに早変わりだぞ」
「いまでもじゅうぶんアブナイ奴だよ」

そうして二人揃ってジョーのほうを見た。

ジョーはバニーさんと話している。
にこにこしながら、手をつないで。ずうっと。

ふかふかもこもこのバニーさん。

巨大なうさぎのぬいぐるみ――の、被り物の中身はフランソワーズであった。