コスプレ/新ゼロ
「ほう、可愛いな」 猫耳のついたカチューシャ。 ギルモア邸に戻ってからずっと、初めて見た時はともかく、すれ違うたびにみんなニヤニヤしながら何かコメントしていく。時には頭を撫でられたりもして。 「似合うなあ。これから毎日それでもいいんじゃないか?そうしろよ。な?」 冗談じゃない。 「いや、本当に似合うって。可愛いぜ。惚れちまうかも」 ・・・・。 「なに複雑な顔してんだ、冗談だ、って」 ジェットがカラカラ笑う。 「つきあっちゃえば?ジョー」 だから、冗談じゃない、って!!
「うん、可愛い可愛い」
「それ一日中やってんのか?――へえ・・・罰ゲームか何か?ん?あ、違う?あ、そう」
なぜか今日はそれを一日中つけていることになった。
なぜなのかは訊かないで欲しい。
そう――ちょっとした賭けに負けたとでも言っておけばいいだろうか。そんなところ。
黙ったままでいると、背後から能天気な声がした。
「今時珍しいみたいね、セーラー服って」 フランソワーズがくるんと一回りしてみせる。 「パリでは制服なんてなかったから、なんだか新鮮だわ」 潜入捜査でとある高校に行くことになったのである――が。 「――でも生徒じゃなくても良かったんじゃないのかな。新任の教師とか」 高校にはまともに通ってないから知らなかった。 「いくらイワンでも難しいみたいよ?だから、転校生のほうがいいの」 蒼い瞳がすうっと細められた。 「あ、いや、別に」 ジョーは我が身を見直した。 変だろうか? しかし、変なところは思いつかなかった。 「別に――変なところはないと思うけど」 ジョーはちゃんとした制服の着方を知らなかった。 「ねぇ、ジョー・・・いつまでこの姿でいればいいの?」 フランソワーズは不安そうに尋ねた。 「いつまで、って・・・たぶん、もう少しだと思うけど。ところで何か見えるかい?」 とあるパーティの潜入捜査であった。 「もうかれこれ二時間よ?いくら何でも遅すぎない?私たちのことがばれたんじゃないかしら」 フランソワーズはそうっと周囲を窺った。でもやはり何も怪しいところはない。 「ねえ。今回は何もなかったってことじゃないのかしら」 フランソワーズは頬を膨らませた。が、ジョーには全く効き目がなかった。 「いいじゃないか、人気者みたいだし」 涼しい顔で言って笑った。 「もう。大変なのよ、色々と」 *** 広いホールの反対側にはジェットとピュンマがいた。ふたりともスーツ姿で客の扮装である。 「・・・アイツ、周りがちょっと退いてるの気付いてないだろ」 ジェットが目でジョーを指す。 「気付いてないだろうな。あの様子じゃ」 そうして二人揃ってジョーのほうを見た。 ジョーはバニーさんと話している。 ふかふかもこもこのバニーさん。 巨大なうさぎのぬいぐるみ――の、被り物の中身はフランソワーズであった。
白とブルーのコントラストが眩しい。
「あら、知らないの。そうそう簡単に教師が増減するものではないのよ」
「そうなのか?」
「ふうん・・・でもさ、高校生って十代だよな」
「――あら。何が言いたいの?」
「老けてる高校生って言いたいんでしょ?」
「違うよ」
「でもそんな事言ったら、ジョーのほうがよっぽど変なんだから!」
「ネクタイはどうしたの」
「ここ。ポケットのなか」
「シャツのボタン、ちゃんと上まで留めなさい」
「苦しいからヤダ」
「だったら、せめてブレザーのボタンくらい・・・」
「やだよ、みっともない」
「じゃあ、ブレザーの袖をまくるのはやめて」
「こういうほうがいいんだ、って」
「もうっ!どうしてそう不良な格好なの!」
「不良?こんなの全然だよ」
「ううん。全く変化なしよ」
フランソワーズはバニーさん。ジョーは客として、彼女の盆からシャンパンを受け取ったところだった。
「そんなことないさ。大丈夫だよ」
「でも・・・」
「いや――たぶん、敵が狙うとしたら終盤だろう」
「それまでこの格好?」
「ああ」
べーと舌を出してみせてもまるっきりの無反応。
「だろうね。もうしばらくの辛抱さ」
「けど、大の男があれはないだろうよ」
「いいんじゃない?どうせオタクのパーティだ」
「それにしてもさ。だったらフランソワーズにメイドの格好でもさせりゃよかったじゃねーか」
「そんなことしてみろ、ジョーの奴、アブナイオタクに早変わりだぞ」
「いまでもじゅうぶんアブナイ奴だよ」
にこにこしながら、手をつないで。ずうっと。