「お姫様だっこ」 A

 

 

 

「ジョー。腕が」

「うん?何が?」


ジョーがフランソワーズをだっこしたままゆっくりと立ち上がった。
そこでフランソワーズはジョーの腕の惨状に初めて気付いたのだった。

ジョーの腕から降りようともがく。

が、ジョーにそんなつもりはなく何事もなかったかのように歩き出した。


「ねぇ、ジョー」
「元気百倍だから大丈夫」
「そんなの嘘よ。ねえ、下ろして」
「嘘じゃないよ」
「だって痛いでしょう?――ごめ」

ごめんなさい、と言おうとしたがジョーにそれを言わせる気はないようだった。

「さっきのちゅーで元気100倍」
「……もう。ジョーったら」

フランソワーズはジョーの耳元に唇を寄せるとそっと言った。

「だったらもう一回、してもいい?」
「えっ?」

ジョーが目をみはる。

「え、もう一回って…」
「――なんて、するわけないでしょう、ジョー!」

ジョーに隙ができた一瞬、フランソワーズは彼の腕から逃れていた。

「さ。治療するのが先よ」
「え。フランソワーズ、ちょっと待って」
「待たない。いくらミッションの一環でもケガするなんて聞いてないわ」


自分がダイブしたせいでジョーが怪我をした。

勿論、ダイブしたのはミッションの一環でありフランソワーズの意志ではない。
だから余計腹がたった。


――ジョーのばか。


フランソワーズの目尻に盛り上がった粒は降りしきる雨に紛れて消えた。

 

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