「全てがヤバイ誕生日」
〜フランソワーズの誕生日〜

 

 

「・・・おかしい」


顎に手を当て、じっと床を見つめている。
微かに眉間に皺が寄る。
その横顔は、何か哲学的なことを考えているのに違いないと思わせる雰囲気があった。絶対に下世話なことではない。彼の頭の中を占めているのは、哲学あるいは宇宙物理学に違いない。人類の発生や歴史、そのようなことであろう。

ナインはじっと床を見つめている。

ここは彼の部屋だった。
そして、彼の立っている場所以外は酷い有様だった。

棚という棚、引き出しという引き出し、ともかく収納と名のつく場所からは全てのものが外に出されていた。床に不規則に盛り上げられてゆく雑多なものたち。その山が幾つも幾つも彼を囲んでいる。

ナインは探しものの真っ最中であった。


「ヤバい!プレゼントどこやったっけ!?」

 

 

***

 

 

インターホンが鳴って、ナインは我に返った。

放心している場合ではなかったのだ。なにしろ、今日は――


「ジョー?いるんでしょう?」


ナインは慌てて玄関へ向かった。もちろん、部屋のドアをぴったり閉めておくことは忘れない。

「――やあ」
「こんにちは」

心なしかひきつった笑みを頬に浮かべるナイン。が、それに気付かないのかスリーはにっこり笑うと玄関から中へ入った。

「ああ、重かった」

肩から提げていたバッグと両手の荷物をゆっくり下ろす。

「だから僕が迎えに行くって言ったのに」
「いいの。準備が大変なのにジョーが待ってると思うと落ち着かなくて、忘れ物をしちゃいそうだったもの」
「忘れたら僕が取りに行くよ」
「駄目よ。いくら私のお誕生日だからって、甘やかさないで。図に乗っちゃうわよ?」
「乗ってくれていいよ」
「だから、もう。ジョー?今の話、聞こえてなかった?甘やかしちゃ駄目って言ってるのに」
「ふん。誰に向かって言ってるんだい?僕はゼロゼロナインだ。ゼロゼロスリーのひとりやふたり、甘やかして図に乗ったからってどうってことないさ!」
「もうっ・・・」

ああ言えばこう言うんだから、と小さく言いながらキッチンへ向かう。もちろん、荷物は全てナインが持った。ナインはといえば、軽く鼻歌混じりでいたってご機嫌である。

「でも、いったいこれって何?随分重いけど」
「うふふ。見てのお楽しみよ」
「だけどさあ。きみの誕生日なんだから、きみが働く事ないと思うんだけど」

お姫様でいてくれればいいのに。というナインを黙殺しつつ、スリーはバッグから中身を取り出しキッチンテーブルに並べてゆく。

「これはね、お正月に食べられなかったもの」
「ええっ、おせち?」
「の、アレンジしたものよ。お正月じゃないからおせちっていうのも、ね」
「僕は別に構わないのに。・・・開けてみてもいい?」
「駄目っ。もうっ、今見たら楽しみがなくなっちゃうでしょ!」
「けち」
「ま。言ったわね。じゃあ、ジョーは見るだけで食べちゃ駄目の刑」
「なんだよ、それ」
「駄目ったら駄目よ。お・あ・ず・け」

なんだよそれ。別の意味にもとれてむかつくぞ。と思いながらスリーを見つめ、けれども一瞬後にはそんなことはきれいさっぱり忘れてしまった。
何しろ、にこにこ笑いながらからかうような口調のスリーは・・・

ヤバい!嫌なトコまで可愛く見える!