「伝えたい」

 

 

その日、僕は朝からイライラしていた。
何をしても、何を聞いても気に入らない。

そんな日の唯一の慰めといえば、スリーの淹れたコーヒーだろう。
美味しいコーヒーを飲んで、スリーの顔を見れば少しは気分が良くなるかもしれない。
そう思ったから、こうしてギルモア邸にやって来た――の、だけど。

「あら、ジョー。おはよう。早いのね」

戸口で僕を迎えたスリーの声には、どことなく迷惑そうな響きがあった。
僕が朝から来るのなんて、そう珍しくもないことなのに。
――そう、ここは朝から開いてるコーヒーショップじゃないのよと怒られるくらいには。

「・・・急に来て悪いけど、コーヒー淹れてくれる」
「ええ。それはいいけど・・・」

曖昧に語尾を濁すスリーの脇を通り、リビングへ行く。
そこには食後のコーヒーを飲んでいる博士とセブンが居た。

「あれっ、アニキ、今日は随分早いお出ましで」

セブンの軽口に付き合う気分ではなかったから、僕は博士におはようございますと口の中で言ってからソファに沈み込んだ。

「ん?アニキ、ひょっとして機嫌悪い?」

――うるさいな。

「もしかしてスリーとケンカでもした?」

してないよ。してたらここへ来るもんか。

「ケンカなんてしてないわよ、セブン。ね?ジョー」

コーヒーと一緒にスリーがやって来た。

「はい、どうぞ」
「・・・ありがとう」

テーブルにカップを置いて、にっこり微笑むスリー。
・・・少し気分がマシになったような気がした。しかし、それもほんの一瞬の事だった。
何故なら。
スリーは自分のカップを手に僕の正面のソファに腰掛けたのだ。

「――なあに?どうかしたの、ジョー」

コーヒーをひとくち飲んで、そして僕の視線に気付いて顔を上げる。
僕は声もなかった。

なんで――どうして。いつもは・・・

「・・・怖い顔。今日のジョー、何だか変よ」

変なのは君だろう?
どうして今日に限って。

「コーヒー、美味しくない?」

心配そうに見つめるから、慌ててカップに口をつけた。

「イヤ、いつも通り美味しいよ」
「そう。良かった」

だけど僕の気分は晴れなかった。スリーの顔を見てもすっきりしないのなんて初めてだった。
僕は意地になってるみたいに、がぶがぶとコーヒーを飲んだ。
カップを置くと、スリーの視線とぶつかった。

「――何」

何だか気に障る。

「ううん。・・・今日のジョー、何だかいつもと違うから」
「――そうだろうな」
「何かイライラしてるみたい」

してるさ。
その原因の半分は――君、だ。

・・・ったく、スリーの顔を見に来たっていうのに、これじゃ全くの逆効果だ。
大体、何だって君は・・・今日に限っていつもと違う事をするんだ?

そんな僕の気持ちに全く気付かず、コーヒーを飲み干すとスリーは立ち上がった。

「ごめんなさい。今日はちょっと出かけるの」
「車、出そうか」

カップに口をつけながら――中身はとうに空だった――上目遣いにスリーの様子を窺う。

「あっ、ううん。いい。バスを使うから」

何故か慌てた様子が気になった。

「――そう」

そうして僕は、どうして朝からイライラしていたのかを同時に思い出していた。

それは――昨夜のことだった。