昨日は会えなかったから、電話で話していた。夜もずいぶん遅かったけれど、それでもスリーは嬉しそうだったんだ。
「そうだ、明日どこか行かないかい?」
天気予報で快晴だと言っていたし、と僕は付け加えた。
どこか緑のある気持ちのいい所でもいいし、海――は目の前にあるけれど、――うん、他の海辺に行ったって悪くはないだろう。
頭の中であれこれ考えを展開させる。
きっとスリーはお弁当を用意してくれるだろう。彼女の料理はどこかワンパターンだったけれど僕の好きなメニューばかりだから、全く構わない。うん。いつも通りでいいよ、って言おう。
「スリー、それで――」
「ごめんなさい。明日はちょっと・・・予定があるの」
てっきり承諾するものと思っていたから驚いた。
「――予定?」
「ええ。あの、・・・お買い物に」
「なんだ。だったら車出すよ」
「え、でも・・・」
「ただの買い物だろう?荷物持ちくらいやってやるぞ」
微かに戸惑った様子のスリーだったが僕は気にしなかった。
別に、僕が行って困るような買い物なんてないだろう。
まぁ、さすがに下着売り場だけは勘弁してもらいたいが。
「でも・・・悪いわ」
「いいって。この僕が珍しくもお供をすると言ってるんだぞ」
そう――いつもは、女の買い物なんかに付き合ったりは絶対にしない。相手がスリーであっても、だ。
大体、下見をしても買わずにもう一巡りして――それでも結局何も買わない、などという不毛なコトをする人種なのだ。とても付き合えるものではない。
が、その時の僕は寛大だった。自説を曲げてもスリーに付き合うつもりだった。
何故って、それは・・・自分で認めるのも何だかしゃくだけど・・・僕はスリーと一緒にいたかったんだ。
「本当に大丈夫だから」
なおも固辞するスリーに僕はたたみかける。
「ふうん?この僕が自ら荷物持ちをかって出てるっていうのに断るのかい?だったら、もう二度と荷物持ちなんてやってやらないぞ」
「まあ、ナインったら。――でも、本当にいいの。大丈夫だから」
結局、僕はスリーにやんわりと断られたのだった。
一昨日も昨日も今日も会ってないのに、明日も会えないと平気で言う。
会えなくて寂しい――なんてことはなかったけれど、平気そうな彼女の様子が気になった。
断られた後は何を話したのか憶えていなかったけれど、楽しげに笑う彼女の声だけが耳に残った。

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