どこへ何しに行くのか――買い物だけど――教えてもらえない僕は、ただむかむかと胸が悪くなるだけだった。気分が悪い。最悪だ。
スリーがリビングから去っても、僕はひとりソファで悶々としていた。

どうして僕が行ったらダメなんだ。
どうして一緒に居てくれないんだ。
どうして久しぶりに逢ったのに、嬉しそうな顔をしないんだ。
どうして――隣に座らないんだ。

しばらくして、スリーがちょこっと顔を出し「行ってきます」と笑顔で言った。
僕は立ち上がった。

「――帰る」
「えっ、ジョー?」

途端に困った顔をするスリー。

「何?僕が一緒に出ると何か困るのか」
「え・・・ううん。そういうわけじゃない・・・ケド」

ちらりと僕の顔を見る。

「――ついて来ないでね」

その瞬間、頭に血が昇った。

「何だよその言い方。僕がいると何か困ることでもあるのか」
「困ること・・・」

そんな事ないわ、という言葉を期待していたのだけど。

「――そうね。困るわ。ええ、ジョーが一緒だと凄く困るのよ」

頭がくらくらした。

「・・・何でだ」
「何ででも、よ」

もうっ、だからついて来ないでね、と言い残し背を向けるスリー。
頭に血が昇ったままの僕は、思わず彼女の腕を掴んでいた。手加減を忘れるくらいに。

「いたっ。何、ジョー?痛いじゃない」
「うるさい。――言えよ」
「えっ?」
「どこで誰と会うのか」
「・・・なんのこと?」
「僕がいると困るって事は、誰か・・・他の男と会うんだろう」
「まっ。どうしてそうなるのよ」
「そうなんだろう?」
「違います」
「だったら」
「いいじゃない。言いたくないの」
「フランソワーズ」
「もうっ・・・」

スリーは僕の手が緩まないと悟ると、きっと僕を睨みつけた。

「いい、ジョー。あなたが心配するような事は何もないわ。本当よ?」
「フン。どうだかな」
「本当だってば」
「だったらどうして今日に限って隣に座らなかったんだ」
「――え?・・・何の事?」
「さっきのことさ。いつもは隣に座るのにそうしなかったって事は、誰か他に好きな――」
「ばかっ!!」

僕はスリーの持っていたバッグで殴られた。

「もうっ!一体、何を言ってるの!?ジョーがそんなにやきもちやきだなんて知らなかったわ!」
「別にやきもちなんかやいてないぞ!」
「そういうの、やいてるって言うのよ!」

ばかばかと更にバッグで連打してくる。

「いてて、スリー、いい加減に・・・」

バッグの角は意外と痛いんだぞ。
僕はスリーの手首を掴んで動きを封じた。

――まったく、とんだ乱暴者だ。

彼女の両手を掴んだまま、僕は顔を覗き込んだ。そして、次の瞬間、驚いて手を離していた。
何しろ、スリーは。

顔を真っ赤にして。

目は潤んでいて。

――泣いている?

何故?

――どうして?

 

「・・・あの、フランソワーズ」
「――知らないっ。ジョーのばか」
「え、あ、イヤ・・・その、ゴメン」

掴んでいた手が痛かったのかもしれない。そういえば手加減してなかった・・・と思い出した。
だから、掴んでいた場所をそうっと撫でるつもりで手を伸ばしたのに、スリーはさっと身を退いた。

「知らない。ジョーのばか」
「だから、ゴメン、って」
「一緒に来たらダメって言ってるのに」

いや、それはそうなんだけど。
でも、理由を訊くのはそんなにいけないことなのだろうか。

「だけど」
「だって。――ジョーのお誕生日のプレゼントの・・・下見に行くのに」

「・・・え?」

「なのに、ジョーが一緒に来たら台無しじゃない」
「――誕生日」
「そうよ。・・・去年は、ちゃんとお祝いできなかったから、今年は、って・・・」
「――なんだ。それならそうと言ってくれればいいのに」
「イヤよ。だって、もし言ったらジョーは絶対」

絶対――なんだというのだろう?

「いや、そう言ってくれていれば無理について行こうなんてしないよ」

参ったな、と頭を掻く僕にフランソワーズは頬を赤くしたまま続けて言う。

「そんなの、わからないもの。――もう。だから今日は顔を合わせないうちに出かけるつもりだったのに」

・・・だから、来た時迷惑そうだったのか。

「隣に座らなかったのだって、だって・・・隣に座ったらジョーは絶対」

だから、絶対なんだというのだろう?

「――私、今日はもうお出掛けの格好してるから、だから・・・」

更に頬が染まるスリーに、何だか僕の体温も上昇してきたような気分になる。

「いや、だから・・・そう言ってくれれば僕は別に」

君が隣に座ったから、って抱き締めたりなんかしないで我慢したのに。
そこまで警戒しなくてもいいじゃないか。

「だって、服がシワになっちゃうもの。――いつもの自分の行動、憶えてないの?」
「え、あ、イヤ・・・」

憶えてる・・・けど。

だってさ。
スリーが隣にいたら、ぎゅうってしちゃうの仕方ないだろう?
あったかくて、柔らかくて、気持ちいいんだからさ。

「だから、今日はひとりで出かけたいの。それだけなのに」
「ん、わかったよ。――ごめん」

だけど。

僕の誕生日プレゼントなんて、そんなの――