そのまま出かけてしまうと思ったのに、スリーは動かない。
ただじっと僕の顔を見ている。探るみたいに。

「――出かけないの」
「ジョーが先に出て」

僕は深いため息をついた。

「・・・ついて行かないよ。ったく、信用ないなあ」

動かないスリーの横をすり抜け、僕は玄関へ向かった。
なんだかすっきりしない思いを抱えていたけれど、それでも――今朝よりはだいぶマシになったような気がする。少なくとも、胸がむかむかするようなイライラした感じは緩和されている。

――スリーの顔を見たからだろうか。

どんな態度で迎えられたって、結局僕は・・・

靴を履いている時につんと袖を引かれた。
今度は何だろう?

「・・・何?」
「ジョー、あの・・・」

いったん、黙って。
そうして意を決したように顔を上げるスリー。

「・・・お誕生日、何か欲しいものある?」
「えっ」

 

――欲しいもの。

 

「・・・別にないよ。いいよ、そんなに気にしなくても。僕はスリーの選んだのを楽しみにしてるから」

 

欲しいもの――それは。

 

「まあ、敢えて言えば――フランソワーズの時と同じがいい・・・けど」

でもそれは、男と女では微妙にニュアンスが変わってくるだろう。

「・・・同じでもいい、の?」
「えっ、イヤ、敢えて言えば、だよ」

スリーの誕生日に彼女が僕に望んだのは、1日一緒に過ごすということだった。
僕の時間を――24時間、彼女にあげた。
その日は僕にとっても凄く楽しくて嬉しくて幸せな日だったんだけど。

「――そんなに欲しくはないのね」
「えっ?」
「敢えて言えばって事は、別のもののほうがずっといいってことでしょう?」
「え。いや・・・」

別のもの。といえば確かに欲しいのは別のもの。だけど。
でもそれは、――同じことだ。

「あのね。ジョー。それ、私もちょっと考えたのよ」

小さい小さい声で言われる。

「――え?」
「だから。私のお誕生日にジョーの1日をもらったから、今度は反対に、って」

そ――そうなのか?

「だけど、・・・迷惑かもしれないから」

迷惑?

そんなわけない。

「い、イヤ。全然、迷惑なんかじゃないよ」
「・・・本当?」
「ああ。――その、」

もしも僕が「その日はずうっと一緒にいたい」って言ったら君はどうする?

「――でも、いいよ。無理しなくて」
「無理なんかしてないわ!」

・・・本当に君はわかっているのだろうか。
24時間――ということは、まるまる1日なのだから。
もし、朝8時にスタートしたら翌日の朝8時までなんだぞ。・・・一緒に朝を迎えることになるんだぞ。
本当にその意味がわかっているのだろうか。

「そんな風に言うってことは、・・・やっぱり迷惑なのね」
「いや、ちが」
「いいの。ちょっと言ってみただけだから」
「いや、そうじゃな」
「買い物に行ってくるわね。ついて来ちゃダメよ」
「いや、ちょっとま」

スリーは僕に取り合わず、さっさと靴を履くと出て行った。

 

――くそっ。

いったい、何なんだ。

 

「フランソワーズ!」

僕は靴を履くのももどかしくドアを開けると駆け出していた。
ちゃんと――僕の欲しいものを伝えるために。

ずっと一緒にいたいと告げるために。

 

 

 

 

 

 

 

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