そのまま出かけてしまうと思ったのに、スリーは動かない。 「――出かけないの」 僕は深いため息をついた。 「・・・ついて行かないよ。ったく、信用ないなあ」 動かないスリーの横をすり抜け、僕は玄関へ向かった。 ――スリーの顔を見たからだろうか。 どんな態度で迎えられたって、結局僕は・・・ 靴を履いている時につんと袖を引かれた。 「・・・何?」 いったん、黙って。 「・・・お誕生日、何か欲しいものある?」
――欲しいもの。
「・・・別にないよ。いいよ、そんなに気にしなくても。僕はスリーの選んだのを楽しみにしてるから」
欲しいもの――それは。
「まあ、敢えて言えば――フランソワーズの時と同じがいい・・・けど」 でもそれは、男と女では微妙にニュアンスが変わってくるだろう。 「・・・同じでもいい、の?」 スリーの誕生日に彼女が僕に望んだのは、1日一緒に過ごすということだった。 「――そんなに欲しくはないのね」 別のもの。といえば確かに欲しいのは別のもの。だけど。 「あのね。ジョー。それ、私もちょっと考えたのよ」 小さい小さい声で言われる。 「――え?」 そ――そうなのか? 「だけど、・・・迷惑かもしれないから」 迷惑? そんなわけない。 「い、イヤ。全然、迷惑なんかじゃないよ」 もしも僕が「その日はずうっと一緒にいたい」って言ったら君はどうする? 「――でも、いいよ。無理しなくて」 ・・・本当に君はわかっているのだろうか。 「そんな風に言うってことは、・・・やっぱり迷惑なのね」 スリーは僕に取り合わず、さっさと靴を履くと出て行った。
――くそっ。 いったい、何なんだ。
「フランソワーズ!」 僕は靴を履くのももどかしくドアを開けると駆け出していた。 ずっと一緒にいたいと告げるために。
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