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〜誰にも触らせたくない〜

 

 

スリーが泣き止んで。
僕はその可愛い顔をずっと見ていて。

それで。

――困った。

 

「ジョー?どうしたの」

先刻まで泣いていたくせに、いまは少し鼻の頭が赤いだけでもう涙は滲んでいない。
恥ずかしそうに、健気にも笑ってみせようとする。

反則だ。

そんな、今まで見たこともないような笑い方をされたら。

 

「・・・ジョー?」

訝しそうな色が混じる蒼い瞳。
違う、何も心配しなくても大丈夫だから。

「うん。何でもないよ、フランソワーズ」
「そう?・・・そろそろ起きなくちゃ」
「そうだね」

そう言ったものの、一向に起きる気配のない僕に、スリーの頬が少し膨らむ。

「ジョー。腕を除けてくれないと起きれないわ」

だけど僕は腕を除けない。

――だって。

 

「じゃあ、起きなくてもいいだろ」
「だって、それは・・・」

困ったように僕を睨み、そうして改めて視線を部屋へ巡らせた。
何かを探すみたいに。

「・・・いま、何時かしら」

僕は黙ってベッドサイドから目覚まし時計を取り上げ、スリーの目の前に差し出した。
時刻は既に9時を過ぎていた。

「まあ。もう9時じゃない。ジョー」
「うん?」
「24時間過ぎちゃったわ。帰らないと」

 

帰る?

何故?

 

「だって、・・・8時までの約束でしょう。ずっと一緒にいるの、って」
「・・・フランソワーズは僕と一緒にいるのが嫌なのかい?」
「ううん。嫌じゃないわ。――でも」
「だったらいいじゃないか」
「でも――ずっとこうしているわけにはいかないし」

僕は全く構わないけれど。

――それに、僕は――

 

何か言おうと思ったけれど、うまい台詞を考え付く前にスリーは僕の腕を除けて身体を起こしていた。
あまりにも淡々とした仕草。
あまりにも簡単に僕の腕からすり抜けてゆく。
それが許せなくて、僕から逃れるみたいに思えて、頭に血が昇った。

 

「もうちょっとここに居ろって言ってるだろ!」

 

びっくりして瞳を丸くした可愛い顔。

――ああもう。

 

「ジョー?」

 

何も言うな。

 

「あの、」

 

だから、何も言うな!

 

「ねぇ、じ」
「フランソワーズ。僕から逃げようったってそうはいかないぞ」
「逃げるつもりなんか、」
「きみの残した爪の跡も、きみの汗も、きみの熱さも、きみの指先から爪先まで髪の毛一本だって、全部僕のものだ。誰にもやらないっ」

フランソワーズは何か言おうとして黙って、そうしてゆっくりと息を吐いた。

 

「・・・ジョーったら」

 

ちょっと困った顔をして、そして――くすりと笑った。さっきまで泣いていたのに。

 

「顔、赤いわよ?」

「!!」

 

くすくす笑い続けるスリー。その声がまた可愛くて、くすぐったくて――僕は。

 

 

 

 

逃げられないのは僕のほうだった。