「一緒に過ごす誕生日」
〜つかまえた!〜

 

 

思えば、いつも横顔ばかり見ていた気がする。
こっちを向いて、と思いつつも、いざ目が合うと恥ずかしくて、だからいつもわざと横顔ばかり見ていたように思う。
それに気付いたのは、こうしてまっすぐ見つめるようになってから。
まっすぐ見つめても逸らさない黒い瞳。
優しくて。
強くて。
ゆるぎない意思を宿した強い瞳。

こうして見つめ合っても大丈夫だなんて知らなかった。
今はむしろ、逸らしてしまう方が怖くて不安になってしまう。
目を逸らせたら、目の前からいなくなってしまうのではないかと思ってしまう。
だからずっと見つめているけれど、そんな私ににっこり笑って大丈夫だよと言ってくれる。

そんな彼が好き。

ジョーが好き。

 

 

 

ナインのバースデー。
今年はちょっとドキドキする。

 

ナインの部屋に来るのは初めてではないから、今さら緊張することもないのだけど、今日は少し違って見えた。
いつもより荷物が多いのは、ケーキを作る道具を持って来たせいだけではない。
ナインは一体何が入っているんだいって笑っていたけれど、女の子のお泊りには色々と必要なものがあるのよ。

そう――今日はナインの家にお泊りなのだ。
24時間、ずっと一緒にいようねって決めた時、自然とそういう話になった。
夜を二人で過ごすのなんて初めてではないけれど、任務でも何でもなくてそうなるのは初めてだった。

何だか緊張する。

でも、私の考えすぎかもしれない。

・・・でも。

そうでもないかもしれない。

ナインの様子はいつもと全く変わりがなくて、彼がどういうつもりなのかは窺えない。
ケーキのホイップを任せたらすごく上手だったりとか、揚げ物をした先から食べていってしまうとか、二人でお料理をしている時はとても楽しかったけれど。

 

「・・・ええと、何か・・・DVDとか観る?」
「え・・・、そうね」

食後のお茶を飲んで、何となく二人とも黙り込んで。
しんと静まり返った室内に私の心臓の音だけが響いてゆく。
きっとナインにも聞こえているだろう。
でも、どんなに鎮めようとしても無理だった。

「あの、」
「あのさ」

お互いの声が被る。

ちょっと黙る。

「なあに、ジョー」
「何だい?」

また被る。
気まずい沈黙。

一拍置いて、ナインが言う。

「え・・・と、そうだな。ドライブとか――行く?」

私は黙って首を横に振る。

「ん・・・、じゃあ、何か好きな映画でも借りに行く?」

それも首を振る。

「えっと、じゃあ――」
「――何もしなくていいの」
「えっ?」

恥ずかしかったけれど、ひといきに言ってしまう。

「一緒に居るだけでいいの。ジョーはそれじゃ嫌?」
「え、嫌って、そんな事は・・・」

私は俯いたままナインの手にそっと触れた。熱い。

「だって、一緒に居るって決めたから」
「え。あ。――ウン。でも」
「ジョーはそれじゃつまらない?私と一緒じゃ」
「そんなことないよ。そうじゃなくて、その――フランソワーズがつまらないかと思って、それで」
「ううん。・・・大丈夫」
「――そうか。でも」

ナインの手が私の手を握り締める。

「そんな事言ったら、もう――離さないぞ」
「いいわよ」
「・・・意味、わかって言ってる?」

ナインの真剣な声に、私はいっしゅん黙って、それでも小さく頷いた。小さいけれども、しっかりと。

「――ええ。わかっていると・・・思う」

ナインは小さく何か呟くと、私の手を引いた。
私はそのままナインに抱き締められた。

ドキドキ心臓の音がうるさくて――でも、それは私だけじゃなかった。
ナインの心臓も、私と同じくらい速く打っていた。

 

「・・・つかまえた」