「一緒にすごす誕生日」
〜もう遅い?〜

 

 

その日、スリーは随分早くにやって来た。

玄関チャイムが鳴って目を覚ました僕は、ぼんやりインターホンに出て、そこから聞こえるスリーの声に完全に覚醒した。
ドアを開けると、そこには大荷物のスリーがにっこりと笑って立っていて。
僕はというと、しわくちゃのパジャマ姿のままでぼんやり見惚れてしまっていた。さぞやバカみたいに映ったことだろう。

午前8時。

きっかり24時間一緒にいるためには早く来なくちゃ、と、もっともらしく話すスリー。
僕が、そんなにずうっと一緒にいたいなんて知らなかったなと言うと、俯いて黙ってしまった。
顔を覗きこむと頬が真っ赤に染まっていて、ちらりと見つめた瞳が所在なげに揺らめいた。
思わず手を伸ばしかけた僕に舌を出すと、スリーはキッチンへ逃げ込んだ。朝ごはんまだでしょうと言いながら、何かを作り始めている。
僕はともかくスリーを構うのは後にして、着替えて顔を洗ってきた。朝からこんな調子で、今日はいったいどうなるんだろうと思いながら。

 

スリーが僕の部屋に来たのは数えるほどだったけれど、かといって一緒に居るのが息苦しいということはなくて、むしろ僕は一人でいる時よりリラックスしている感じがしていた。

まったく、どうしてこうも空気が違うんだろう。

彼女が僕のテリトリーにいるというだけで、いつでも捕まえられるのだという安心感が生まれるのだろうか。

――いつでも捕まえられる。

確かにその通りだったけれど、本当に捕まえることができるのかどうかは甚だ疑問だった。

――でも。

もう君の逃げ道はないよ、フランソワーズ。
君はいま、自らこちら側に踏み込んできたのだから。

 

けれども、圧倒的優位に立っているはずの僕は、彼女の笑顔を見るたびに敗色が濃厚になってゆくのを感じていた。
こんなはずではない。

こんな――はずでは。

 

「もう、遅いわよ」

 

――何が?