「赤いチューリップ」

目の前に花が差し出された。

「!?ゼロゼロナイン?これ・・・」
「ホワイトデーのプレゼント」

にっこり笑って、更に花を差し出してくる。

「受け取ってよ」
「え、あ、ハイ」

言われるままに花を受け取る。
チューリップとかすみ草の花束。

「・・・カワイイ・・・」

思わずもらした一言に、満足そうに頷くナイン。

「女の子って、そういうの好きだよな」

そう言いながら、中へ入っていく。
私は慌てて玄関のドアを閉め、ナインの後を追った。

リビングで本を読んでいたセブンが顔を上げる。
「あれっ、アニキ」
「よぉ」
片手を上げ、セブンに応えると正面のソファにどっかりと腰を降ろした。
「アニキ。昨夜の合コンはどうだったんだよ」
「ウン。楽しかったよ」

私は手に花を持ったまま立ちすくんだ。

二人の会話は続く。

「いいなぁ。アニキはもてるもんね」
「そうかな?どうだろう・・・でもデートの約束はしたよ」
「へー。いつ?いつデートするの?」
「ウン。明日の夜」
「今日じゃないんだ」
「だって今日はホワイトデーだろう?ゼロゼロスリーに花を渡さなくちゃいけないから」

そう言って、立ちすくんでいる私を振り返る。

「どうした?早く生けたほうがいいよ?」
「え、あ、ウン・・・」

ナインの声に押されるように洗面所へ向かう。

 

シンクに水を溜めて、チューリップとかすみ草を漬ける。

――デート。

――明日の夜。

ナインの言葉がこだまする。

いやね、私。何を気にしているのかしら。
ナインが――ジョーが、誰かとデートするのなんて今に始まった事じゃないじゃない。

ジョーはいつも、自分の予定を話す。
それがデートでも、そうでなくても必ず言う。
まるでそれが自分の義務であるかのように律儀に。
時には、次も会う約束をしたとか、もう会わないつもりだとか、そういう事まで話してくる。
そんな時、私はいつもただ曖昧に笑ってやり過ごす。
怒るのも変だし。
話の続きをきくのもおかしいし。
ヤキモチやくのなんて・・・それこそ、見当違いもいいところ。

ナインにとって私は、「003」という仲間であると同時に、おそらく――「妹」。
だから、全く悪びれずに平気で他の女の人の話をする。
もし、ナインが私のことを異性として好きだったらそんな話は絶対にしないはず。
だから、違う。
彼にとって私は、「仲間」であり「妹」。