翌日の夕食後。

後片付けを終えて、セブンと博士を寝かしつけたところに電話が鳴った。

「――やぁ、フランソワーズ」

「ジョー!?どうしたの!?」

何か事件でも?
咄嗟に気を引き締め、緊張する。

「別にどうもしない。――これからそっちに行ってもいいかな」

「もうセブンも博士も寝ちゃってるわよ?」
「いいよ。・・・コーヒーくらい飲ませて」
「わかったわ。じゃあ、コーヒー淹れて待ってるわね」

受話器を置いた途端にインターホンが鳴った。
こんな夜中に訪ねてくるなんて、誰だろう?
思わず透視すると、ドアの外に立っていたのはジョーだった。

「――ジョー!?」

だって、たった今、電話をしたばかりで・・・

「ゴメン。コレで電話してたんだ」
右手の中の携帯電話を示す。

「いったいどこから電話してたの?」
「うん。ここ」
「ここ、って・・・」

呆然とする私を置いて、勝手知ったる他人の家、ズカズカとリビングに入ってゆく。

「やっぱり一日の最後は、スリーの淹れたコーヒーを飲まなくちゃね」
「まぁ。ジョーったら」

調子いいんだから。
私の淹れたコーヒーを毎日飲んでいるわけでもないのに。

ひとしきり笑ったあと、コーヒーを淹れるためにキッチンへ向かおうとした私の背にナインが何か言った。

「えっ?何か言った?」
「――うん」

振り返ると、ジョーが見ていたのは昨日彼からもらったチューリップだった。

「まだ咲いてるね」
「そりゃそうよ。一日で枯れたりなんてしないわ」
「フーン」

間。

「・・・ねぇ、ジョー?」
「うん?」
「・・・今日の」
「うん」
「・・・今日のデートはどうだったの?」
「楽しかったよ」
「・・・そう」
「うん。そう」

ジョーはチューリップから目を離さない。

「――ねぇ、フランソワーズ」
「なあに?」
「毎年、ホワイトデーには赤いチューリップを贈っているよね?」
「?ええ」
「どうしてだと思う?」
「どうして、って・・・」

考えたこともなかった。
「私がチューリップが好きだから・・・とか?」
「それもあるけど」

そう言って、今度は私をじっと見つめる。

「花言葉って知ってる?」

ジョーからそんなセリフが出てくるのが意外で、まじまじと見つめ返す。

「知ってるけど・・・それが?」
「赤いチューリップは、『美しい瞳』なんだよ。だから」

えっ?
えっ????

『美しい瞳』って・・・
やだ、ゼロゼロナインたら!

頬が赤くなったのを見られないように、彼に背を向け再びキッチンへ向かう。
リビングのドアの前で立ち止まり、肩越しにちらりと振り返ってみると
ジョーはまっすぐにこちらを見ていた。

「ゼロゼロスリーの目には、随分助けられているからね。
その感謝の気持ちもあるんだ」
「そう・・・ありがとう」

・・・なんだ。
私ってばかみたい。

「あ。コーヒーはブラックでいいから」
「ええ、大丈夫」
知ってるわ・・・と言い残し、リビングのドアを閉めた。