全然、知らなかった。 でもジョーは知ってたんだわ。 コーヒーメーカーから立ち上る湯気を見ながら、ぼんやりと思う。 ずうっと前から――私にチューリップをくれるようになった時から、そういう意味も込めてくれてたんだ。 それはそれで嬉しかった。 花屋でのジョーの姿が目に浮かぶ。 赤いチューリップは好き。
フランソワーズがキッチンでコーヒーを淹れている頃、ジョーはひとりポツネンとソファに座っていた。
『赤いチューリップの花言葉は、もうひとつあるんだよ』
「お待たせ。クッキーがあったから持って来ちゃった」 盆を掲げてリビングに入る。 「クッキー?」 言うなり、ひょいと取り上げて食べてしまう。 「フランソワーズが作ったの?」 そう言って笑ったナインにどう答えていいのかわからず、ドギマギとコーヒーをテーブルに置く。 本当に美味しそうにクッキーを頬張っている。 だから、忘れてしまうところだった。 ・・・でも。 それを訊くのは今日じゃなくてもいい。 こうして向かい合って、コーヒーを一緒に飲んでいる時間が、とっても・・・
『もうひとつの花言葉は――愛の告白、って言うんだけど君、知ってた?』 その一言を、ジョーはコーヒーと共に飲み込んだ。 いつか彼女に伝えられる日がくることを祈りながら。
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