赤いチューリップの花言葉は『美しい瞳』か・・・。
全然、知らなかった。

でもジョーは知ってたんだわ。

コーヒーメーカーから立ち上る湯気を見ながら、ぼんやりと思う。

ずうっと前から――私にチューリップをくれるようになった時から、そういう意味も込めてくれてたんだ。
ただの「バレンタインのお返し」だけではなく。

それはそれで嬉しかった。

花屋でのジョーの姿が目に浮かぶ。
おそらく最初は、どの花にしようか散々迷って・・・で、店員さんが気を利かせて花言葉なんて言っちゃって。
それで、「なるほど。じゃあこれ」って感じで決めたのに違いない。
そして、それ以来ずっと、彼のなかの私のイメージは赤いチューリップで・・・

赤いチューリップは好き。
だから、嬉しい。
それでじゅうぶん。
そうよね?

 

 

フランソワーズがキッチンでコーヒーを淹れている頃、ジョーはひとりポツネンとソファに座っていた。
どうしてちゃんと言えないんだろうなぁと内心、頭を抱えている。

 

『赤いチューリップの花言葉は、もうひとつあるんだよ』

 

 

「お待たせ。クッキーがあったから持って来ちゃった」

盆を掲げてリビングに入る。

「クッキー?」
「今日の午後、焼いたのが残ってて」
「それは運が良かった」

言うなり、ひょいと取り上げて食べてしまう。

「フランソワーズが作ったの?」
「ええ」
「――うん。美味しいね」

そう言って笑ったナインにどう答えていいのかわからず、ドギマギとコーヒーをテーブルに置く。
そして、ちょこんと正面のソファに腰掛け、カップを取り上げ飲むフリをして
カップの縁からそうっとジョーを見つめた。

本当に美味しそうにクッキーを頬張っている。

だから、忘れてしまうところだった。
どうしてデートの後は、いつもここに寄るの?
と、訊くのを。

・・・でも。

それを訊くのは今日じゃなくてもいい。

こうして向かい合って、コーヒーを一緒に飲んでいる時間が、とっても・・・
私にとっては大事な時間なのだから。

 

 

『もうひとつの花言葉は――愛の告白、って言うんだけど君、知ってた?』

その一言を、ジョーはコーヒーと共に飲み込んだ。

いつか彼女に伝えられる日がくることを祈りながら。