「逆チョコのお返しは?」
「――そういえば、逆チョコのお返しは?」 「えっ?」 予約したレストランで食事をしたあとだった。 僕はその沈黙のなか、つらつらと色々なことを思い出しながら――大抵はフランソワーズのことだったけれど――そして、ついさっきの出来事を思い出したのだった。 フランソワーズが何かあげていた男。 逆チョコ。 それって確か・・・僕もフランソワーズにあげていたはずだ。 なのに。 「あるわけないでしょう?貰ってないもの」 つれない返事。 「イヤだな、忘れちゃったのかい?あげたじゃないか。ちゃんと」 言ってる意味がわからない。 「・・・誰かにチョコ、あげたんじゃないの」 ポツリと言って下を向くフランソワーズ。 「ばかだなあ。そんなことあるわけないだろっ。誰かさんは他のヤツから平気で受け取ったみたいだけどね!」 可愛くないことを言うのはいつものことだったけれど、今日はちょっと違っていた。 「・・・フランソワーズ?」 立ち止まって、握った手を引き寄せる。 「どうかした?」 けれども、無言で首を振るばかり。 「――気にしてるのかい?逆チョコのこと」 直接口移しで食べさせたんだから ――と、言おうとしたのに。 背伸びしたフランソワーズは僕の不意をついて、勝手に唇を奪っていた。 「ふ、ふらっ・・・!」 「逆チョコのお返しっ」 にっこり微笑むとフランソワーズは僕の腕に腕を絡めた。 「――これじゃ駄目?」 心配そうに顔を覗き込んでくるその顔が可愛くて。 「・・・いや。いいよ。」 だって僕しか貰えないんだから。 *** 「それにしても、素早いなぁ」 「あら、ジョーの真似しただけよ?」 ・・・・・。
少し酔っている僕たちは、手をつないでゆっくり散歩をしていた。
特に何を話すでもなくただ黙っていたけれど、その沈黙も心地良かった。
逆チョコのお返しだと言っていた。
「ううん、貰ってないわ。・・・ジョーこそ、誰かと勘違いしているんじゃない?」
「――うん?」
「・・・・やっぱり妬いてるんだ」
「妬いてないよ」
「・・・だったら、そんなに何度も言わなくてもいいじゃない」
なんだか妙に元気がない。
「・・・・」
「僕はちゃんとあげたよ?フランソワーズに」
「・・・・」
「それに、フランソワーズにしかあげてないよ。だってさ」
さっと掠めただけのキスだったけれど。