「逆チョコのお返しは?」

 

 

「――そういえば、逆チョコのお返しは?」

「えっ?」

 

予約したレストランで食事をしたあとだった。
少し酔っている僕たちは、手をつないでゆっくり散歩をしていた。
特に何を話すでもなくただ黙っていたけれど、その沈黙も心地良かった。

僕はその沈黙のなか、つらつらと色々なことを思い出しながら――大抵はフランソワーズのことだったけれど――そして、ついさっきの出来事を思い出したのだった。

フランソワーズが何かあげていた男。
逆チョコのお返しだと言っていた。

 

逆チョコ。

 

それって確か・・・僕もフランソワーズにあげていたはずだ。

なのに。

 

「あるわけないでしょう?貰ってないもの」

 

つれない返事。

 

「イヤだな、忘れちゃったのかい?あげたじゃないか。ちゃんと」
「ううん、貰ってないわ。・・・ジョーこそ、誰かと勘違いしているんじゃない?」
「――うん?」

言ってる意味がわからない。

「・・・誰かにチョコ、あげたんじゃないの」

ポツリと言って下を向くフランソワーズ。

「ばかだなあ。そんなことあるわけないだろっ。誰かさんは他のヤツから平気で受け取ったみたいだけどね!」
「・・・・やっぱり妬いてるんだ」
「妬いてないよ」
「・・・だったら、そんなに何度も言わなくてもいいじゃない」

可愛くないことを言うのはいつものことだったけれど、今日はちょっと違っていた。
なんだか妙に元気がない。

「・・・フランソワーズ?」

立ち止まって、握った手を引き寄せる。

「どうかした?」

けれども、無言で首を振るばかり。

「――気にしてるのかい?逆チョコのこと」
「・・・・」
「僕はちゃんとあげたよ?フランソワーズに」
「・・・・」
「それに、フランソワーズにしかあげてないよ。だってさ」

直接口移しで食べさせたんだから

――と、言おうとしたのに。

背伸びしたフランソワーズは僕の不意をついて、勝手に唇を奪っていた。
さっと掠めただけのキスだったけれど。

 

「ふ、ふらっ・・・!」

「逆チョコのお返しっ」

 

にっこり微笑むとフランソワーズは僕の腕に腕を絡めた。

「――これじゃ駄目?」

心配そうに顔を覗き込んでくるその顔が可愛くて。

「・・・いや。いいよ。」

だって僕しか貰えないんだから。

 

 

***

 

 

「それにしても、素早いなぁ」

「あら、ジョーの真似しただけよ?」

 

・・・・・。