「11月22日」
「11月22日はいい夫婦の日なんですって。素敵よねえ」
「単なる語呂合わせだろ」
いつもの朝のギルモア邸。
リビングではナインとスリーが並んでソファに座りコーヒーを飲みながらテレビを見ていた。
「でも入籍するひとが多いそうじゃない」
ナインは鼻を鳴らした。
「きみは意外とオトメちっくなところがあるから、こういうのが好きなんだろうが僕は興味ないね」
「あら、意外とっていうのは余計だわ」
膨れたスリーの頬をナインは笑ってつつくと言った。
「意外と、だろう?いつもは結構クールなくせに」
「いいじゃない。こういう記念日って大事だわ」
「興味ないよ」
「でも忘れないわ、きっと」
「だったらもっと自分たちにゆかりある日にちにしたほうが合理的だ」
「ゆかりある日にちって?誕生日とか?」
「そんなのはスタンダードすぎるだろ。そうじゃなくて、例えば3月9日とか9月3日とか」
「3月9日?9月3日?それのどこがゆかりある日なの?」
「僕たちのナンバーだろ」
あっさり言ったナインをスリーはぽかんと見つめていた。
たった今、物凄いことを言われたような気がするのは気のせいだろうか。
「僕だったらそうするな」
頷いてカップを置くと、ソファに深くもたれてナインは腕を組んだ。
「そのほうがわかりやすいし、――どうかしたかい、フランソワーズ」
「えっ?・・・ええ」
スリーははっとして慌ててカップを置いた。
なんだか胸がどきどきする。
「あの。ジョー、それって」
「うん?」
きょとんと見つめ返すナイン。
――わかってないんだわ。
スリーは小さく息をつくと、にっこり笑った。
「そうね。そういう日のほうがわかりやすいし忘れないわよね。きっと」
「だろう?」
「ええ」
スリーもソファに深くもたれると、再びテレビに目を向けた。
でも内容はさっぱり頭に入ってこなかった。
ただ隣にいるひとが今何を考えているのかだけが気になった。
たぶん、何も考えてはいないのだろうとわかっていても。
***
にこにこしながらテレビを見ているスリーの横顔をこっそり窺いながら、ナインは心のなかで深い深いため息をついていた。
何気なく言ったような、口が滑ったような、そんな話に持って言ったけれど、結構真剣だったのに。
――わかってないんだよなぁ。
そんな11月22日の朝だった。