迎えに行ったら、そこにはミニスカサンタが居た。
お前は誰だ。


「やあね、ジョーったら。眉間に皺寄せて考え込んじゃって。ね、似合うでしょ?」


ミニスカサンタ衣装の中身は、どうやら浮かれているフランソワーズのようだ。
いや実際、フランソワーズに間違いないだろうと思う。思うのだけど、認めたくない。
いくらイヴでパーティで楽しいからってその格好はないだろう。そもそもいつ準備して着替えたんだ。
送った時は小さなバッグしか持っていなかったし。

――なんていう問いはおそらく不粋だろう。何しろフランソワーズの周りにはミニスカサンタばかりがいるのだから。

今夜はそんな集まりではなかったはずだ。ミニスカサンタ祭りなどとは聞いてない。
確かバレエ教室でのクリスマス会だったはず。「くるみ割り人形」公演の打ち上げと忘年会も兼ねていると聞いた。
だから老若男女が出席しているはずで――あ。なんてことだ。男性陣はトナカイじゃないか。

僕が黙ったままでいるのをどう思ったのか知らないが、フランソワーズは浮かれたまま助手席に乗り込んだ。


「うふふ、楽しかったー」
「良かったな」
「あのね、会場に衣装が用意してあったのよ」
「ふうん」

謎がひとつ解けた。

「――着ていった服はどうした」
「えっ?」

フランソワーズは自分の両手を交互に見た。どう見ても手ぶらだった。バッグもない。

「あれ?どうして何にも持ってないのかしら」
「知らん」
「おっかしいなあ。とっても楽しかったのに」

とっても楽しかったから忘れたんだろう。この調子ではそういう輩が続出してるに違いない。
フランソワーズはいかに楽しかったのかを嬉しそうに語りだした。たぶん、酔っ払ってもいるだろう。いったい何をどのくらい飲んだんだ。

「でね。その時言ったのよ。私は別に――」

僕の相槌に執着せず、ずうっと語り続けるフランソワーズ。
冷静に考えてみれば妙な光景だろうなと僕は他人事のように思いながら車を走らせていた。
クリスマスイブに助手席に真っ赤なサンタ衣装を着た女の子を乗せて深夜のドライブ。
考えようによっては、まるでこれからサンタがプレゼントを配りに行くようなシチュエーションだ。

――まあ、当のサンタは手ぶらだけど。

僕は黙々と車を走らせた。
こんな深夜だから、ギルモア邸に帰るわけにはいかない。目指すのは僕の部屋だ。
とはいえ、僕は今までギルモア邸にいた。セブンとシックスとギルモア博士とでクリスマス会をしていたのだ。
メンツは地味だがそこそこ楽しかった。明日のクリスマスにはスリーも来るよねとセブンが何度も確認したから僕は何度も頷いた。

が。

こんな酔っ払い状態で、明日もパーティができるのかどうか甚だ疑問だ。
しかも、服やバッグを取りに行かないといけないし。


――あれ?


ふと車内が異様に静かなのに気がついた。さっきまでひとり陽気に喋っていたのが途切れている。
横目で助手席を見ると、ミニスカサンタはぐったりとシートにもたれていた。

「!?」

一瞬、何があったんだと心臓が冷えたが、眠っているだけだった。
いったい何をどのくらい飲んだんだ。お酒は強くないくせに。ブランデーケーキにも酔うくせに。
まったく。明日は二日酔いに違いない。やれやれ。

駐車場に車を停めて、僕はフランソワーズに声をかけた。が、ぴくりともしない。
肩を揺すってみた。が、起きない。

やれやれ。

車の外に出てドアを閉め、反対側に回ってドアを開け――フランソワーズを抱き上げた。
あのなあ。これ、誰かに見られたら相当変だぞ。クリスマスイブに眠っているサンタを抱き上げ部屋に運ぶ図って。
まるでサンタのプレゼントを独り占めしたいひとみたいじゃないか。

あ、いや。

サンタのプレゼントを独り占めしたいひと、だからいいのか。

クリスマスにデートするという一般的な日本の恋人同士のようなことはできなかったし。
その代わり、彼女が友人たちとのクリスマス会に行くのを許す寛大な恋人という役を割り振られた。
でももうそれもお役御免でいいだろう。

ミニスカサンタを独り占めというのは、案外気に入った。
まだまだ夜は長い。今夜は、ミニスカサンタの寝顔を見ながらワインでも飲むとするか。

そんな楽しいことを考えながら、僕は部屋の鍵を開けた。

 

 

 

ジョーの部屋に入った。そのまま運ばれてゆく私。

どうしよう。
あくまでも眠ったフリだったのに、起きるタイミングを逃している。

運ばれる途中で目を開けたらいいの?

それとも寝かされた時に起きたらいい?

あるいは。

あるいは、もしかしたらジョーが私にキスした時――ううん、ジョーはそんなことしない。眠っているのにキスなんて。
でも。あるいはもしかしたら。
もしかしたら、ジョーだってそうっとそんなことするのかもしれなくて。

なんて考えていたら、それを確認してみたくなった。
ああ、なんだかわくわくどきどきする。そうよね、私たち恋人なんだもの。しかも今夜はクリスマスイブ。もしかしたら何かが起こるかもしれない。

起こるかもしれないし、起こらないかもしれない。

私は眠ったフリを続ける。
半分の期待を胸に。


さあ、どっち?