「ええっ。誰だよ、それ」
私の初恋のひとは誰?って訊かれたからそう答えたら、ナインは急に怒り出した。 「つまりそれって、今が初恋ってことなんだろ?――黒い髪に黒い瞳。僕と同じ日本人か」 顎に手をあて、ぶつぶつ呟きながらリビングをうろうろ歩き回る。 「・・・いったい、どこで知り合ったんだ?・・・あの時の研究員・・・いや、違うか。でも・・・」 私はただナインを見つめていた。 「ああっ、黒い髪に黒い瞳なんて日本人のほぼ100%じゃないかっ!!」 ぐしゃぐしゃと髪を掻き毟る。 「くそっ。どこのどいつだそれは」 立ち止まるとこちらに鋭い視線を向けた。 「――フランソワーズ。僕の知ってるヤツかい?」 頷く。 「ということは・・・バレエのひと・・・いや、違うか。だったら・・・僕が会ったことあるヤツか?」 もう一度頷く。 「――アイツか。・・・いや、違うな。だったら・・・・ええい、いったい誰なんだ」 拳を握り締めて歯軋りしている変なナイン。 「ねぇ、ジョー?」 「会ってみたい?」 「じゃあ、鏡を見て」 ナインが情けない視線をこちらに向ける。 「やだわ、そんなわけないでしょ。いいから、鏡を見て」 ナインは首を傾げながら、それでも言う通りにリビングにかかっている鏡の前へ行った。 「見えた?」
・・・沈黙。
時計が時を刻む音だけ妙に響く。
「・・・・・・えっ?」 ナインがくるりとこちらを向く。 「ええと、・・・それってつまり、――僕?」
今頃わかったの? けれどもナインは「僕?」と自分を指差して言ったあと、ふふんと不敵に笑ってみせた。 「――やっぱりな!そうだと思ってたよ」 自慢するように両手を腰にあてて胸をそらす。 「迫真の演技だったろう?」 ナインの顔がおかしくて、思わず笑みをもらすと彼は眉間に皺を寄せた。 「何かおかしいかい?フランソワーズ」 だってナイン。あなた耳まで真っ赤よ?
私の初恋のひとは、かわいいひとです。
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