「初恋のひと」

 

 

 

 

 

 

 

 

彼が「初恋のひと」って言ったら笑う?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もちろん、初めての恋じゃない。そんなの当たり前。

 

だけど。

 

彼に出会う前は誰を好きだったのか――なんて、思い出せないの。

どんなに記憶を手繰っても、

黒い髪に
――黒い瞳の。

 そんなの、フランス人には本当に珍しくてそうそう会えるわけじゃない。
だから、きっと初めて好きになった人がそういう容貌のわけはない。

だけど。
だったら初めて好きな人がどんなひとだったのか・・・というと

金髪だったのか

ブロンドだったのか

栗色だったのか

 

蒼い瞳なのか

緑色なのか

グレイなのか

 

なんにも憶えてない。

 

私の好きなタイプは、黒い髪に黒い瞳。

それしか出て来ない。

 

でも、それは本当に表面上のこと。
中身はもっと複雑になる。

 

みんなに優しくて、でも少しぶっきらぼうで。
優しくされてもわかりにくくて、時には本当に泣いてしまいそうになる。
だけど頼りになって、彼がいれば安心できる。
とはいえ、彼は私だけを守っているわけではなくて、時には本当に放っておかれる。

 でも、それでいい。

 世界のどんな人にも分け隔てなく優しくて、心から正義を愛する正しいひと。
なのに好きな子には意地悪で。

そんなひとが、いい。

 そんなひとに、会えた。

 

だから、彼が「初恋のひと」なの。