「クリスマスデート」
翌25日はデートをすることになった。 今までみたいに、これってデートよね?と勝手に思っているのとは違う、本物のデート。 昨日の夜は、しばらくおしゃべりをしてからそれぞれの部屋に戻って眠った。 夜も遅いからもう寝なくちゃと言いながら、私は離れがたくてぐずぐずリビングに残っていた。 部屋に戻ってからも、私は眠れなかった。 朝食の支度のため階下に下りて行ったら、既にナインがおきていた。 「おはよう」 朝、ナインがここにいるのなんて珍しくないのに、私は急に落ち着かない気持ちになった。 「あの、ごはん食べるでしょう?すぐ作るから待ってて」 だって、今日はデートしようね、って・・・ 私の顔を見て、ナインが慌てて言う。 「ああ、そうじゃなくて。いったん着替えたいしさ。――ホラ、僕はこの格好だし」 そうだった。ナインはスーツ姿だったのだ。 「後で迎えに来るよ」
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デートの場所に選んだのは、みなとみらい・クイーンズスクエア。この前、ナインを見つけて悲しくなった場所。 「見て、ジョー!まだツリーがあるわ」 はしゃいで駆け出そうとした私の手をナインが掴んで引き止める。 「まだクリスマスなんだから、当たり前だよ」 わざとゆっくり歩くナインの手を引っ張るようにして連れて行く。 「あんまり乗り出すと落っこちるぞ」 背後にいるナインをくるりと振り返る。 「助けてくれないの?」 でも、もし本当にそうなったら絶対助けてくれるのはわかってる。 「・・・意地悪」 ぷうっと膨れてナインから視線を外し、再びツリーを見つめる。 「まったく、バカだなぁ、フランソワーズは」 直ぐ後ろにナインがいる。 抱き締められちゃうのかな、私。 こんな公衆の面前で。 ナインに。 ぎゅーって。 途端にどうすればいいのかわからなくなった。 「そもそも僕は絶対にきみを落とさないよ」 一緒にいるのが誰か、よーく考えるんだな。と、威張ったように言う。 「違うわよ。もし落ちたら、っていう仮定の話をしてるのよ?」 お互いにくすくす笑いながら。目の前のツリーを見つめながら。 この前、ひとりでここに立っていた時は、楽しい気分とは程遠かった。隣にナインがいたらいいのに、って思って悲しくなった。悲しくて、寂しくて、そして、ナインの姿を見つけた。――けれど、ナインは女連れだった。 「フランソワーズ?」 耳元で声がした。 「ほら。雪が降ってくるよ」 見上げると、天井から雪。 ――あの時の気持ち。そう簡単に忘れられるわけがない。 知らず、涙ぐんでいた。 すると、ナインが少し近付いて――背中がふわっと温かくなった。 あったかくて、気持ちが良かった。 ナインといると、寒くて頑なだった心があったまって優しい気持ちになってゆく。 ナインと一緒にいるのが好き。 ナインが好き。
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今日は温かいので、昼食のあと外のベンチに並んで座っていた。 「この後、どうしようか」 言うと、スリーがくるりとこちらを向いた。蒼い瞳がきらきらしてる。可愛いなあ。 「ジョーはどうしたいの?」 僕はスリーがそばにいるならそれで良かったので、ここでこのままぼーっと海を見ていてもいいと思っていた。 心配になって、隣のスリーの様子を窺う。 「・・・どうしたの、ジョー?」 こっそり見たのにすぐに気付かれてしまった。 「――いや、別に」 じっと見つめる蒼い瞳。 じっと。 じいいいいっと。 「・・・寒くないのね?」 じーーーっと見つめる蒼。 「本当に、寒くない?」 大丈夫だと言いかけて気付く。 「・・・ええと。フランソワーズは?」 じっと見つめる蒼い瞳。 「・・・ええ。ちょっと寒い・・・かな」 僕と彼女の間は、こぶしひとつぶんの空間。 イヤ、ダメだ。急にこんなことをしたら、スリーは絶対びっくりして―― ――でも、ミッション中は、肩を抱くなんてことは全然普通にやっていたし、更に、抱き寄せる、なんてことだって普通のことだった。だから――そんなに大したことではない。・・・・かな? すると、スリーが小さくくしゃみをした。 その瞬間、僕はジャケットのボタンをはずすと、上着を広げてその中にスリーを抱き寄せた。 「え、ジョー?」 ああ、目がまん丸だ。 「風邪ひくぞ」 スリーは僕の腕のなかで身じろぎもしない。 「・・・フランソワーズ?」 スリーはうつむいたままだ。 「・・・寒い?」 そう言うと、安心したように息をついて、スリーは僕の肩にそうっともたれた。 ミッション中とは違う。 スリーの髪の香りがする。 スリーが呼吸しているのがわかる。 肩にかかる彼女の重さが嬉しかった。 普段、自分は無敵のサイボーグだと自負していたけれど、いまこの時に比べたら全然だった。 可愛くて、あったかくて、柔らかくて。 心の中が温かくなってくる。 どうして僕はこんなにきみが好きなんだろう? きみが他の男の車に乗っているのを見た時の気持ちは、もう二度と味わいたくない。 絶対、ダメだ。 「――許さないよ」 小さく呟いてみる。 「えっ。何か言った?ジョー」 ぷっと膨れた頬を指でつつく。 「ほら。すぐ膨れるの、コドモだなぁ」 軽く僕の手を払って唇を尖らせる。 「何て言ったの?」 ぷいっと横を向いてしまう。でも、僕の腕のなかから逃れようとはしない。 「知らない。ジョーなんか」 途端に不安そうな顔になって、僕の顔を覗き込んでくる。 「――なんてね。う・そ」 真っ赤になって黙るスリー。そんなのも可愛い。 こうしてきみをいじめていいのも、僕だけなんだ。
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結局、店の中に入ったのは5分後だった。 怒って口をきかないきみ。 でも、繋いだ手を離そうとはしなかった。
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