本当に聞きたい事 

 

―1― 

 

 

考えてみれば、手順、なんていうものは全く無視されているようなのだ。

――そういうものなのだろうか。

 

深夜、ギルモア邸の自分の部屋でフランソワーズは考えていた。
机に頬杖をついて。目の前に置いたココアは手がつけられないまま冷めてゆく。
が、いまフランソワーズの目にはココアも何も映っていない。考える事に忙しいのだ。
頭の中にはひとりの人物の顔しか見えない。

 

 

 

 

そもそも手順なんて、言ってみれば確かに最初からなかったような気もする。
おやすみのキスをしたのは自分からだった。
特に深い意味はなく、パリにいた時の癖で――そうしただけだったように思う。
一度そうして以来、おやすみのキスをしないとジョーはなかなか帰らなくなってしまった。
でも、それは別にいい。
おやすみのキスなんて、大した事ではない。

いつかはジョーも、おやすみのキスを自分からしてみようと思ってくれたみたいだった。
が、日本人である彼にはやはり馴染みがないせいなのか、タイミングが計れないようで結局しないままだった。

頬にキスするの、ってそんなに難しいことかしら。

赤ちゃんや子供、かわいいと思えばキスをする。
あるいは、ありがとうのキスや仲直りのキス。キスキスキス。
もっと軽く考えてもいいのではないかと思う。

しかし、相手が異性であり、しかも恋人という関係になると微妙に意味合いも異なってくるのがキスだった。

ジョーからはおでこにキスすらしてもらったことがない。
髪とか、指先とかももちろんない。
だから、安心していたのだ。
たぶん、ジョーのことだから最初は髪に、次におでこ、そして頬、そして唇――と。
そんな手順があるのかどうかは知らないけれど、少なくともジョーはそうしてくれるだろうと勝手に思っていた。

けれど。

フランソワーズは自分があまりにも子供だったことに唇を噛んだ。

 

 

 

 

――あの時。

どう答えれば良かったのだろう?
それを言うなら、その後はどう接すれば良かったのだろう?

あれ以来、しばらくはジョーを避けてしまった。
二人きりになったら――何をされるかわからない。とまで思った。
よく考えれば、ジョーが自分に何か不利益なことをするはずがないとわかっているのに。

だから、ジョーが買い物に付き合うと言った時も、二人きりではなかったから承諾した。
もしも二人だけだったらきっと行かなかっただろう。

ジョーを避けてしまう。
そんな自分を、彼はどう思っただろう?
どう思っているのだろう?

特に気分を害している風もなかったし、なんだかいつもより優しいような気もした。
あるいは、視線に気付いて彼を見ると、凄く優しい目で見られていて落ち着かない思いをしたこともあった。

彼はいつもと変わらない。

変わったのは――私のほうだ。


フランソワーズは冷えたココアをひとくち飲んだ。

あんまりジョーを避けていると嫌われてしまう。
自分を嫌いになったと思われてしまう。
そんなのは嫌だった。
が、かといってどう接したらいいのかもわからなかった。

だって――正式に「恋人同士」になってから、まだ一ヶ月ちょっとしか経ってないのに。