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デートの帰り、いつものようにフランソワーズをギルモア邸に送り届けたあとのこと。 「・・・ねえ、ジョー?私、あなたに訊きたいことがたくさんあるの」 ソファに並んで座るのも、いつものこと。 「あのね。・・・順番に訊いていってもいいかしら?」 ジョーは足を組んでゆったりと背もたれにもたれた。 「・・・ジョーは、私の淹れたコーヒーが好きなのよね?」 ここまではクリスマスイブに言ったこと。
「じゃあ、どうしてそんな嘘を吐いたの?」
「・・・・・えっ?」
きみに妬いて欲しかったから。
とは言えず。代わりにコーヒーをひとくち。 「・・・じゃあ、ふたつめね」 助かった・・・と、次のフランソワーズの「訊きたいこと」に耳を傾ける。 「去年のお雛様の時に、イヤリングをくれたでしょう?」(注:SS「3月3日」参照) ジョーは答えない。 「それから、みっつめね」 フランソワーズは答えないジョーを気にしながらも続ける。 「『Audrey』にケーキを食べに行った時、不機嫌だったのはどうして?」(注:SS「とまどいも愛おしさ」参照) 「あとね、よっつめ。ジョーのお誕生日、いったい誰と過ごす予定だったの?その時、彼女がいたの・・・?」(注:SS「ジョーの誕生日」参照) 「それから、いつつめ。ワインを飲みに行ったとき、私と一緒じゃないと落ち着かないって言ってたのは保護者としてなのかしら」(注:SS「ワイン」参照) だんだん声が小さくなり、すっかり俯いてしまったフランソワーズ。 「だって、気になってたんだもの。・・・言えないことなら、いいのよ?答えなくてもいい」 ジョーは飲み干したカップをテーブルに載せると、身を乗り出して背中からフランソワーズを抱き締めた。 「っ!ジョー?」 真っ赤になって、ジョーの腕から逃れようと身をよじる――が、それも少しずつ静かになってゆく。 「妬いて欲しかったから。きみのために何度も行った。ウエイターに妬いたから。妬いて欲しかったから。落ち着かないよ、きみが見えないと。――以上」 耳元で、全ての質問に律儀に答えるジョー。が、いずれも物凄い早口だったため、フランソワーズは残念ながら殆ど聞き取れなかった。 「――何か質問は?」 ジョーがフランソワーズの顔を覗きこむ。頬が赤い。が、フランソワーズも負けないくらい頬が赤かった。 「それってつまり・・・」 それってつまり、僕がきみを物凄く好きだっていうことさ。 「あ、あのっ・・・」 ジョーの腕の中で茹りながらも、彼がコーヒーを飲み干したことに気付く。 「おかわり、淹れてきましょうか・・・?」 そうしてやっと腕が解かれた。 「ジョーってほんとにコーヒーが好きよね?」
真っ赤な顔のまま逃げるように去って行ったフランソワーズ。 残されたジョーはソファに寄りかかり、僕のフランソワーズは何て可愛いのだろう・・・と思っていたのだったが。
僕は、フランソワーズの気持ちを聞いていない!
もちろん、彼女の態度や仕草や目線から、自分を好ましく思っていることは間違いないと思う。 しかし、女性にそういうのを言わせるのは、なんとなくかっこ悪いような気もした。 とはいえ。 ジョーは胸の前で腕を組んだ。沈思黙考する。 それでもやっぱり、彼女から「好き」と聞くのは悪くない。 「――だから、バレンタインデーか・・・」 日本では、唯一女性から男性に愛の告白を許されている日。 ――「言って」と言えば言うのだろうか。 009の命令には逆らわない。それが003だ。 なんだかこれじゃあ、僕が片思いしてるみたいじゃないか。 そんなことはないと思ってはいても、一抹の不安は残った。 ――僕が片思い?フランソワーズに?
でも。
「好き」とは言ってくれなかった。
そんな会話をしていたのが約一週間前。イチゴ狩りに行くちょっと前のことだった。 今思えばなんて懐かしいのだろう? 自分がフランソワーズに「好き」とはっきり言われたことがないといっても、彼女の気持ちを疑うなんてことはなかったし、彼女が自分を思っていることにも自信があった。 あんなふうに避けられたら、どうしようもない。 ――僕はきみを襲う悪人か。 自嘲気味の笑みが浮かぶ。 フランソワーズ。 きみは僕が嫌いになった?
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