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「はい、セブン。プレゼント」

差し出されたそれに、セブンはびっくりして顔を上げた。

「えっ・・・プレゼントって」
「今日はバレンタインデーなのよ?知らなかった?」
「知ってた・・・けど」

いつもは、チョコチョコチョコちょうだいー!と、大騒ぎするセブンなのに、今回はなぜか暗い顔をしている。

「どうかした?」
「ん・・・いや、アニキにもちゃんと渡すんだよね?」
「えっ」
「だって、そうじゃなきゃ、オイラもらえないよ!!」

ぐいっとチョコレートの箱をつきつけられ、スリーは一歩引いた。

「だ、だってセブン。ナインは今日お仕事でここには来ないもの」
「仕事?」
「そうよ。忘れたの?ナインはレーサーなんだから。ファン感謝祭っていって、バレンタイン企画のそういうのがあるの」
「そんなの、去年はなかったじゃないか」
「あったわよ?ただ、14日が土日じゃなかったから、目立たなかっただけ」
「・・・じゃ、アニキは今日来ないの」
「そうよ」
「だったら尚更、もらえないよ」
「どうして?セブンは私から貰うのは嫌?」
「嫌じゃないよ。そうじゃなくて・・・」

困ったようにべそをかくセブン。

「だって、スリーがアニキにあげないでオイラだけにくれるなんておかしいもの。変だよ、そんなのっ。最近、アニキはちっともここに来ないしさ。仲の悪いふたりなんてやだよ!」
「・・・仲が悪くなったわけじゃないわ」
「じゃあ、なんなのさ!」
「・・・それは」

「スリーが僕を避けてるだけ、ってことさ!」

「アニキっ」
「っ、ジョー?」

いつの間にかリビングのドアが開いており、そこにサングラスをかけたままのナインが立っていた。いつからそこにいたのかはわからない。

「ほらっ、スリー!アニキはちゃんとここに来たじゃないか!だから、チョコレートっ・・・」

セブンがナインに纏わりつくようにして一緒に歩いてくる。
ナインはサングラスを外すと、一瞬険しい瞳でスリーを見た。

「・・・別に今日は仕事じゃない。前に言ったはずだが」

そのままソファにどっかりと腰を降ろす。

「ねえねえ、ファン感謝祭ってどんなの?」
「ん?・・・そうだな。女の子がいっぱい来て、色々なものをくれる」
「へー」
「それから、握手をしたり、一緒に写真を撮ったり、」

ちらりとスリーを見つめる。

「ほっぺにちゅーしたり、色々だ」
「ほっぺにちゅー?アニキ、そんな事もするのかい?」
「外国の人もいるから、別に大した事じゃあない」
「へえー。国際的なんだね」
「そうだな」

スリーはセブンに渡したはずのチョコレートを持ったまま立ちつくしていた。さっき「受け取れない」とセブンに返されたままだった。その箱をぎゅっと握りしめると、口元に笑みを浮かべふたりのそばへ近付いた。

「セブン。はい、これ。もう受け取ってもらえるでしょ?」
「え、でも・・・」
「大丈夫。ナインにも博士にもちゃんとあげるから。ね?ナイン?」
「ああ。そうだね」

ちらちらと二人の顔を交互に見ていたセブンも、二人の会話にやっと安心したのかスリーからチョコを受け取ると嬉しそうに走って行ってしまった。

「・・・・・」

気まずい沈黙がおりる。

「――あのさ」

低いナインの声。スリーの肩がびくんと揺れる。

「今日は何の日だか知ってる?」
「・・・・ええ」
「――そう。なら、いいんだ」

再び沈黙。

「・・・あの、ジョー?」
「なに」
「今日は仕事じゃ・・・」
「ファン感謝祭のこと?確かこの前、それは11日だって言わなかったかな」

憶えてなかった。

「意外と14日当日にすると来られないひとが多いんだ。だから、ここ数年はずっと11日なんだが」
「そう・・・だった、かしら」
「――ま、いいけどね。どうせスリーは僕の予定なんかどうでもいいんだろ」
「そんなっ・・・」

あまりのナインの言葉に喉が詰まる。

「・・・そんなことっ・・・酷いわ」
「――酷いか」

口元を上げてナインが嗤う。

「酷いのはきみのほうさ。今日、僕がここに来ないと思って安心してたんだろう?」
「ちがっ・・・」
「今日が何の日か知ってるくせに、僕がここに来なくても平気なんだ」
「・・・そっ・・・」

そうじゃない、と言いたいのに声が出ない。

「あいにくだったね。僕は今日、ここに来た。それも、きみに会うためにだ」