ひとくち大のハートのチョコレート。
それをつまんで口に入れる。

「うん。うまい」

心配そうにナインの顔を見つめていたスリーは、彼の言葉にほっとしたように微笑んだ。

「・・・良かった」

その笑顔を見つめ、こちらも同じく笑顔になったナイン。

「きみも食べたら?ひとつくらいならあげるよ」

でも、あとはダメだぞ。全部、僕のなんだからな――と、大威張りで言う。

「ううん。作っている時にいくつも味見したから、しばらくチョコはいいわ」
「そう?なら、本当にやらないぞ」
「いいわよ」

しばらくナインがチョコレートをかじる音だけが響く。

「・・・あのね、ジョー」

ナインの隣で、スリーが自分の手元を見ながら小さく言った。

「ひとつ、聞いてもいい?」
「んー?」
「あの」

ちらり、とナインを横目で見るものの、再び視線は下へ。

「・・・今日ってバレンタインデーだったでしょう?」
「うん」
「その、・・・ジョーはいくつ貰ったの?」
「何が」
「チョコレート」

ナインの手が止まる。
そして、コーヒーに口をつけて。
ゆっくりとカップを置くと、スリーの蒼い瞳がまっすぐに自分を見ているのに気付いた。

「・・・ふうん」

にやりと笑う。が、質問には答えず、再びチョコレートをつまむ。

「ね。ジョー」
「・・・気になる?」
「え、・・・ええ。少しだけ」
「へえ。どうして?」
「どうして、って・・・・」

ぱっと頬が朱に染まる。

「・・・ジョーの意地悪」
「意地悪なんて言ってないさ。どうして気になるか訊いてるだけ」
「私が先に質問したのに」

それもそうだな、と呟いてナインはソファにもたれると指折り数えはじめた。

「ええと、・・・1個2個3個・・・・6個、うーん、・・・プラス4個の、・・・」
「もういいわ」
「えっ、でも知りたいんだろう?」
「いい」
「そうか?」
「だって、たくさん貰ったみたいだもの。・・・もてるのね?」
「別に。もてないよ。義理だよ全部」
「嘘ばっかり」
「本当だって」
「そうかしら?」
「そうさ。僕はこれだけでいいよ」

そう言ってスリー手作りのチョコをつまむ。

「ん。でも、食べすぎよ。鼻血ぶーになっちゃうわ」
「・・・なるかな」
「ええ。だから、あとは明日ね」

ナインの手から取り上げてしまう。

「ちゃんと歯磨きもするのよ?」
「うん」
「・・・ちょっと、ジョー」
「なに」
「・・・だって」

スリーの頬を両手で包むようにして、至近距離からじっと見つめて。

「――逆チョコって知ってる?」
「えっ」

真剣な表情のナインに、これは何か難しい話なのかもしれないとさっと緊張する。

「・・・男から渡すチョコレートのことさ」
「あ、そういえば――」
「――だから」

そうして重ねられた唇。

ナインからは甘いチョコレートの香りがした。

 

 

***

 

 

「・・・もうっ」

しばらくして離れたあと。
目尻に涙を溜めて、真っ赤な頬で、スリーは怒ったように言った。

「ジョーったら、ちゅーしてばっかり!」
「だめ?」

真面目な顔で訊くナインに、ますます頬が熱くなる。

「・・・だ。だめじゃない、ケド・・・」

くすりと笑みを洩らし、優しくスリーの前髪を撫でるナイン。
何だか彼の思惑通りになっているようでちょっと悔しい。

「・・・ジョーの意地悪」
「フン。その通り。――知らなかった?」

いたずらっぽく煌く黒曜石。
ナインが蒼い瞳に見つめられると何もかも放り出してしまうのと同じように、スリーもこの瞳に見つめられると全て許してしまうのだった。

「・・・知ってたわ、もうずうっと前から」

ため息とともに言うと、ナインに頬をつつかれた。

「でも、好きな子にしか意地悪しないけどね」
「・・・コドモね、ジョーって」
「きみの方がコドモだろ」
「ジョーよ」
「きみだよ」

しつこく頬に触れるナインの手を除けながら、好きな子をいじめるって発想はやっぱりコドモなのじゃないかしら・・・とスリーは思う。

でも、そんなコドモなひとを好きな私も、やっぱりコドモなのかしらね?