ばれんたいん前哨戦 |
「ねぇ、ジョー?」 「うん?」
「あの、・・・14日なんだけど、空いているかしら」 ナインはカップを置くと虚空に視線をさまよわせた。 「うーん。何かあったかな」 スリーはナインの隣に座ると、期待に満ちた眼差しでじっと見つめた。 「あ。その日は確か『ファンの集い』が」 どことなくしょんぼりしているスリーにナインは言った。 「その日はバレンタインデーじゃないか!」 そうかそうかそうだったよなとナインはひとり納得した。 「うん。大丈夫。集いは夕方には終わるから」 夜には一緒にいられるよ。と続けるはずだったが、あまりにスリーがしょんぼりしているので言えなかった。 「フランソワーズ?」 けなげにも笑ってみせるから、ナインは一瞬『ファンの集い』など知るもんかと思ったけれど。 「気持ちを伝えるのなんて、別にその日じゃなくてもいいのよね」 これを聞いて気が変わった。 「バレンタインデーなんてそんなの、片想いの奴らにとって重要なだけだろ?僕たちには関係ないよ」 早口に言うと、コーヒーを飲み干した。 「そっ・・・そうね」 私たちは片想いじゃないものね・・・と、スリーが小さく呟いた。 頬はナインと同じ色に染まっていた。
「でも、ファンの集いって確か・・・」
それは恒例なのだろうか。 そして、今年もそのようにするのだろうか。
なんだよそれ、と言うナインに構わず、スリーは続けた。 「だってイヤなんだもん。ジョーが誰かにチューされるのもするのも」 ナインはやれやれ困ったなと頭を掻いた。かといって、彼女の言葉を受け容れるわけにもいかない。 困って黙ったナインを見つめ、スリーは瞳を輝かせて言った。 「だから、ね?お迎えに行ったら、すぐチューできるでしょう?ジョーと」
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